人々の寿命が延びてくると、近視に関連しても大きな問題が持ち上がってきます。その第一が近視性網脈絡膜萎縮で、もう一つが正常眼圧緑内障です。
病的近視の合併症とその治療として考えると、病的近視は等価球面度数-8.0ジオプトリ―より強い近視の眼とされ、眼球の前後の長さ(眼軸長)が前後に引き延ばされています。病的近視の頻度は、人口の1%程度であって少なくはないとされますが、長期間にわたってハードコンタクトレンズを使用している患者さんを引き継いで診療している自由が丘清澤眼科でははるかに多い比率です。そのような眼では近視性網脈絡膜萎縮、近視性脈絡膜新生血管、近視性中心窩分離症、黄斑円孔などを起こしやすいとされます。近視性脈絡膜新生血管ではその新しくできる異常血管のできる深さによって2群に分けられています。その異常血管の特徴は加齢黄斑変性での新生血管よりも狭い範囲にとどまることが多く、一乳頭径以下であり、眼底写真でも見逃されることが多いです。頻度は強度近視の5から10%で網膜の真ん中にある中心窩付近にみられることが多いです。脈絡膜の菲薄化や血流の不全から網膜に虚血を生じ、最終的に脈絡膜新生血管を起こすという説があります。黄斑に脈絡膜萎縮を起こせば高度の視力障害をきたします。無治療だと、10年後には96%に網膜に脈絡膜萎縮が発生して、矯正視力は0.1以下になるとされます。その診断には蛍光眼底撮影と光干渉断層計(OCT)が用いられます。近視性黄斑変性では網膜の浮腫や網膜下液は加齢黄斑変性よりも少ないです。以前盛んにおこなわれた網膜光凝固その他の新生血管に対する手術や処置は、術後の凝固斑の拡大や、新生血管の再発が多いため最近は行われることが少なくなり、むしろ治療の中心は抗VEGF薬の眼球内への注射が行われます。実際には点眼麻酔後に細い注射針を用いて硝子体内に注射がなされ、予後は比較的良いです。網膜の中央に円形の穴が開き、そこから網膜剥離を起こすのが黄斑円孔網膜剥離であり、中心窩において網膜が内層と外層に分かれてしまうのが中心窩分離症です。黄斑円孔が完成した症例では積極的に手術が行われます。(文献は病的近視の合併症と治療:生野恭司)
緑内障は成人の中途失明の代表的原因疾患であり、良いほうの眼の矯正視力が0.05未満のものが世界全体で360万人であり、これは白内障による失明1500万に次ぎ第2位です。これは、加齢黄斑変性による失明の180万や糖尿病網膜症による失明の86万人よりも多いのです。緑内障による失明は男性が女性より多く、加齢とともに増加し、特に90歳以上の超高齢者で急増します。緑内障による視覚障害は2015-2016年の身体障害者手帳の新規交付原因疾患の第一位であって、28.6%をしめていました。緑内障では、眼外へ視神経として移行する網膜神経節細胞の軸索が選択的かつ進行性に脱落します。軸索が喪失すると、視神経乳頭は視神経乳頭陥凹拡大と、リムと呼ばれる視神経の縁の部分の菲薄化を示します。最大のリスクファクターは高眼圧です。40歳以上の日本人の緑内障有病率は5%であり、最も頻度が高いのは正常眼圧緑内障で3.6%でした。近視人口は2050年には世界人口の約半数の50億人に達します。近視は緑内障のリスクファクターです。近視の緑内障有病率に対するオッズ比は1.88であり、3ジオプトリ―を超える近視ではそれが2.46に増えます。近視眼では、近視であることによる眼軸長延長に伴う視神経の構造異常が緑内障性視神経症の進行に寄与していると考えられています。(参考文献;近視と正常眼圧緑内障:東出朋巳)
コメント