コンタクトレンズ・眼鏡処方

[No.1943] 未完成なのに大反響「自動焦点アイウェア」の正体:記事紹介

清澤のコメント:自動で焦点を調整する眼鏡の話題を先日取り上げたが、その追加報です。先に行われたクラウドファンディングでは目標500万円のところ既に2.5億円を得ることができ、視野を広げる再改造を目指すそうです。我々は、視野が狭いなどの欠点ではなく、自動焦点眼鏡の有用性に目を向けるべきなのかもしれません。(未完成なのに大反響「自動焦点アイウェア」の正体|au Webポータル経済・ITニュース (auone.jp)

   ーーー記事要点採録しますーーーー

未完成なのに大反響「自動焦点アイウェア」の正体

見た目は眼鏡のようだが、眼鏡とは異なる目的を持つ「ViXion01」。近未来的な外観とは裏腹に、実用的な技術が盛り込まれている(写真:ViXion)

大企業で事業継続できなかった技術をベースにした製品が今、密かに話題を呼んでいる。

光学テクノロジベンチャーのViXionは6月下旬から、クラウドファンディングを通じて、同社が開発した「ViXion01」への出資を募っている。目標額500万円を早々に突破し、すでに2.8億円を超える支援を得た。予想以上の反響から、現在は部品調達がどこまでできるか検証が必要になるほどの状況にあるという。

見る距離に応じてピントを自動調整

見た目は眼鏡のようなViXion01は、眼のピント調節をサポートするウェアラブルデバイスだ。

見る対象物からおよそ50センチの距離で一度ピントを合わせると、それ以降、対象物からの距離に応じてレンズが自動的にピントを合わせ続けてくれる。利用者は近距離で長時間ものを見続けるような作業を行っても、眼が疲れにくい。

レンズの光学特性は、眼鏡の度数に当たる視度矯正の範囲で表現すると、±15度に相当する幅広さを有している。そのため近視、遠視、老眼が強い人にとっても大幅な負担軽減になる。乱視補正には現時点では対応していない。同種の技術トライアルを行っている海外ベンチャーもあるが、製品化はViXion01が初という。

核となっているのは、電子制御で焦点距離を変化させる技術だ。詳細は明らかにされていないが、電極の配置や電圧制御などでレンズ特性が変化する、流体レンズの一種を用いているとみられる。前述したように調整可能な焦点距離の範囲が広く、その範囲内で正確に電子制御できる。

実はこの技術、一度製品化にこぎ着けたものの、事業を続けることは難しいと判断されたものだ。なぜ今、クラウドファンディングという手法を用いて新たな製品化に至ったのか。

ViXion01のルーツとなる製品の原型は、眼鏡レンズなどを手がけるHOYAの社内ベンチャーとして生まれた。弱視、とくに少しでも暗い場所にいると目が見えにくくなる網膜色素変性症などの夜盲症の人たちのために、ガイドヘルパーがいなくても1人で外出できるようにするためのデバイスを開発することを目指し、実際に「MW10」という製品を作ったという。

ViXion01には被写体との距離を計測するセンサーが前面中央に埋め込まれておりそれに応じてレンズの視度を変化させ、ピントを自動的に合わせてくれる(写真:ViXion)

しかし、そもそも重度の弱視障害を抱える人の数は極めて少ない。網膜色素変性症の場合、国内の患者は2.3万人ほどだ。

また、弱視障害者向けの日常生活用具として認定を受けると助成金が出るが、助成金認定は自治体ごとの判断となる。事務手続きの煩雑さはもちろん、製品が障害者にとってどう有益であるかについて、各自治体に説明を続けなければならない。そのうえで、製品の詳細な機能を弱視障害者自身にも知ってもらう必要がある。

HOYA社内では、そうした営業活動を続けながら、この技術をさらに進化させるための研究開発投資を続けることは困難との判断に至った

「障害者向け」から発想を転換

とはいえ弱視障害者支援を考えるならば、何らかの形で事業化に向けて技術は残したい。そこでHOYAは、開発チームの一部をカーブアウトする形での起業を模索。そのコンセプトなどに共感する投資家や、類似技術で弱視障害者の問題解決を行っている別の起業家とのつながりが生まれ、2021年にViXionが設立された。

起業家でソフトウェアエンジニアでもある浅田一憲氏は、プロジェクトに共感して経営に参画した。(中略)ViXionが立ち上がり、技術の幅広い応用についてディスカッションを始めると、当初考えていたよりも多くの人たちのニーズに気づいたという。

「視覚障害者の問題解決がスタート地点ですが、障害とまでは言えないものの、かなり多くの人が視覚の問題で困難を抱えていることがわかりました。“障害者向け”の開発は続けるとしても、より多くの困っている人たちのデバイスをその前に作れるのではないか。そう発想を切り替えたことが、ViXion01の企画につながりました」

より多くのユーザーをターゲットにすることが、視覚障害に悩む人たちを救うことにつながる。発想の切り替えの裏には、そんな思いもあった。

「実は世界的に近視になる人がものすごい勢いで増えています。スマートフォンの普及、寿命が伸びたことによる老齢化が原因といわれています。そして多くの視覚障害のスタートは”近視”なんです。言い換えれば、近視を防ぐことによって視覚障害を持つ人を減らすことになる。視覚障害を患う人を助ける、そうなることを防止する、病気そのものを減らすデバイスを作ることが理想です」(浅田氏)(中略)

事業化への道には多くの困難も

この製品を試して最初に筆者が体感したのは、「眼精疲労」の軽減である。人間の眼は、水晶体の厚みを毛様筋という筋肉で変えることで焦点位置を調整している。近くばかりを見続けるには、毛様筋を緊張させ続けなければならない。

ViXion01は、毛様筋が最も緊張しない50センチほど前にある被写体に対し、左右の目それぞれでピント合わせを行い、その位置をロックする機能を備えている。一度ピントを合わせれば、デバイスの前面中央に埋め込まれたセンサーが計測した被写体との距離に応じて、レンズの視度を変化させてピントを自動的に合わせてくれる。

つまりユーザーはつねに緊張しない状態で、対象物をシャープな像で見続けることができるため、原理的に眼の疲れが起きにくい。これは、近視を患う要因の1つと考えられる「長時間、近くを見続ける行為」から解放されることにつながる。実用的な機能に加えて、こうした課題解決の可能性に対する期待が、クラウドファンディングで広い支持を集めた背景にあるようだ。

このように書くと、ならば将来に向けてもっと大きな資金を集められるのではないかと思うかもしれない。しかし現実には事業化への道は遠い。より多くの人が日常使いできる”まるで眼鏡”のようなデバイスになるには、まだ多くの困難を乗り越える必要があるからだ。

例えばViXion01は9時間の連続稼働が可能ではあるものの、日常的なツールとして使うには数日の電池寿命がほしいところだ。

また、眼鏡ほどの広い視野を得られるわけではない。現時点ではレンズ径が小さく、常用するには有効視野が狭い。ただ眼とレンズの距離を適切に調整すれば、長時間の細かな作業での快適性を実現できる。(中略)

ViXionの南部誠一郎CEOは「われわれもこの製品が完璧なものだとは思っていません。未来的なデザインを採用したのも、日常的に使う眼鏡とは異なる商品であることを視覚的にも理解してほしいと思ったからでした」と明かす。クラウドファンディングを通じての製品化に踏み切ったのも、そうした背景からだという。

一般流通に乗せられるほど多くのニーズがなかったとしても、視覚に関する悩みを持ち、ViXion01を必要としてくれる人が存在することは間違いない。ならばまずは届けるところから始めよう、というわけだ。

クラファンで得た最大の成果

クラウドファンディングで集まった支援の大きさや、南部氏が全国の家電店を回りながら感じたデモンストレーションへの反響を考えれば、ViXionの最初の挑戦は成功しそうだ。

南部CEOは「この製品は完璧なものとは思っていない」と語り、さらなる技術開発を進める方針だ(筆者撮影)

冒頭でも述べたように、クラウドファンディングでは執筆時点で2.8億円を超える支援を受け、技術開発を進める資金を得ることができた。「近い将来、直径を1.5倍、視野を2倍に広げる新しいレンズを量産できる技術も見え始めました。レンズの光学特性も、より複雑な変化を機能として持たせる研究開発を進めています」(南部氏)。

もっともいちばん大きな成果は、ViXionが解決しようとしている問題について深く知ってもらうことができたことだろう。その奇抜な見た目はまるでSF世界のアイテムのようだが、未来的な印象とは裏腹に、視力に問題を抱える人を救う実用的な製品だ。

工業製品のクラウドファンディングは、”市場立ち上げの早期ステージ”や”実用化の最終段階”をクリアするための、お手軽な早期割引プランと化していたことは否定できない。とくに最近は、量産化を前提に、新製品を導入する際の安全な手法として使われることが多くなっていた。

しかしViXion01のように、社会的な意義、あるいは将来大きな発展が期待できる技術を用いた製品の始まりを支援できるのであれば、まだまだものづくりジャンルにおけるクラウドファンディングにも大きな意味がありそうだ。

(本田 雅一 : ITジャーナリスト)

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