乳児虐待裁判(SBS/AHT事件、shaken baby syndrome, abusive head trauma)勉強会の印象録
7月5日、自由が丘の貸会議室で行われた乳児虐待症候群に関する弁護士向けのクローズド勉強会にコメンテーターとして参加させていただきました。会場には現地参加者が4名、全国からはZoomで約10名の弁護士が参加されました。彼らは、眼底出血を伴う乳児虐待が疑われて刑事事件になっている裁判や、児童相談所から赤ちゃんを取り返すための訴訟を担当している弁護士たちでした。
勉強会では、K弁護士やA弁護士がこれまでの刑事裁判で経験した症例を報告しました。眼底所見の見方など、眼科の基礎的な部分については清澤が適宜コメントしました。網膜出血の形から、その部位や原因をある程度は推定できることを、所敬教授の教科書の図とHenkind博士の網膜血管構造図を用いて説明しました。
また、乳児の眼底写真を撮影するための特殊なカメラがどの病院にもあるわけではないことや、通常の眼底写真では後極40度程度しか撮影できないこと、出血が硝子体に広がれば鮮明な写真が撮れないことなどについても触れました。近年、意識の悪い乳児に眼底出血があったからといって、即座に「乳児虐待だ」と決めつける単純な図式で考えられることは減少しているようです。しかし、弁護士に相談される眼科医側でも「私は乳児の眼底出血や眼外傷の専門家ではないから」と発言を控えることが多いようです。
会の後の夕食時の話題
日本では検察官に刑事事件として起訴されると、その有罪率は99%と言われています。裁判官にも刑事訴追された事件に対して有罪との心証を持ちやすい傾向があるのかもしれません。このような環境で被告人の無罪を勝ち取ることは、弁護人には相当な困難があるようです。それでも乳児虐待症候群の例では被告人が無罪を勝ち取れたケースが増えており、裁判所も検察も有罪判決や起訴には慎重になりつつある印象を受けました。
また、医学界では有力な医学雑誌に著者として投稿し掲載されることが研究者のキャリアにとってアドバンテージになります。海外の有名なオープンアクセスの医学雑誌での掲載料(投稿料)は30から50万円にも達します。しかし、弁護士界ではそのような投稿の動機は働かず、法学の雑誌ではほとんどが編集部からの依頼原稿で成り立っており、一般的な著者主導の投稿はほとんどないとのことでした。これは我々医学界の常識とは異なる点です。
最後に、藤原一枝先生著「赤ちゃんを転ばさないで」(清澤も共著)は絶版と聞いていましたが、アマゾンで見るとまだ残部があるようです。
Amazon.co.jp: 赤ちゃんを転ばせないで! ―中村I型を知る― : 藤原一枝、西本博、櫻井圭太、清澤源弘: 本
注:裁判関連の用語につき秋田弁護士の加筆をいただきました。(7月7日)
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