小児の眼科疾患

[No.2342] 臨床心理士による心因性視覚障害へのカウンセリング紹介

清澤のコメント:新学期が近づき、心因性視覚障害を疑われる児童の受診を見ています。少し前の当院の臨床心理士小野木陽子さんがその外来を紹介する文章を書いてくれました。小児で難治性の視覚障害を示しているお子さんには試してみることのできる診療と思います。清澤が診察の上で、そのカウンセリングが適切と判断すれば、小野木臨床心理士につなぎます。(カウンセリング費用は通常の眼科医療費のみを請求し、特に本人と家族が長い時間のセッションを希望した場合のみ他日に私費部分面接日を設けます。)

   ーーーご案内ーーー

心因性視覚障害の児童におけるカウンセリング

(この文章は小野木陽子が臨床心理カウンセリングを紹介する目的で用意してくれたものに少し清澤が手を加えました。) 

自由が丘清澤眼科医院 臨床心理士 小野木陽子

目には症状に対応する異常がなくて、それなのに十分な視力がでない心因性視覚障害の児童に心理カウンセリングを行っている。

非器質性視力障害のものには心因性の物が含まれるが、日常生活で無意識に繰り返される「見たくないもの」を避けるために症状が現れる問題もあれば、眼鏡をかけた姿にあこがれる眼鏡願望のような場合もあり、要因はさまざまである。

 心因としては、学校や家庭環境におけるストレスが原因となることが多く、母子関係、兄弟姉妹関係、両親の不仲、離婚、転居、転校、受験勉強、お稽古事の多忙負担、いじめなど多岐にわたる。児童の性格特性としてはどちらかといえば、内向的で自己表現が苦手な子が多いようである。また、多動、場面緘黙、自閉スペクトラム症が心因性視力障害を誘発している場合もある。

家庭環境、とりわけ母親との関係が原因となる場合が多い。患者は保護者、特に母親と一緒の受診が一般的であるため、母親から話を聞き、母親を知ることで、おおよその家族関係が理解できる。そのために、保護者と一緒の面接の後で児童だけで話をする時間を必ず設けている。

認知行動療法のホームワーク記入は高学年になっても難しいため、できそうな課題を設けて、次回カウンセリング時に結果を聞くようにする。そして行ったことを褒めてねぎらう。治りたい気持ち、援助して欲しい気持ちが強く、また、褒められたい気持ちから「宿題出して」と自ら要求する児童もいる。

児童の患者には描画法を用いることが多い。コミュニケーションが苦手な、また、話をしたくない児童、また、特に描くことが好きな児童は楽しんで生き生きと描く。おとなしく内気な就学前や小学低学年の児童が驚くほど、色彩が鮮やかで豊かな絵を描いてくれることがある。反対に、しっかりして成績の良い高学年の児童が色彩なく弱々しくおざなりに描くこともある。継続して描いた描画はその変化で症状、生活環境、対人関係、心理状態が改善されていくのが解る。

児童が描く間、カウンセラーは口を挟まず患者だけの時間にする。自由で安全な時間である。描き終わった後で、カウンセラーは作品について質問をしたり、患者に説明をしてもらったり協同の時間をもつ。それによって、頷くだけだった児童との会話が可能になり、信頼感も生まれる。

また、絵の中に新芽やつぼみが描かれた時は、再生や出発ができる準備が整ったのかと、カウンセラーは患者の気持ちに新たな解釈を見出すこともある

小学校高学年で理解度の高い児童には認知行動療法を行った。適応的思考に視野を広げ、本人の認知のくせの自覚を促すために、バランスシートに書き込む宿題を出してカウンセリング時に児童と確認して話し合った。

カウンセリングの目的、利点は①本人の無意識の不安、悩みに気付くこと②親と一緒通院し時間を共有し、親が自分のために時間を作ってくれているという親の愛情の認識③主治医への情報伝達などがある。

児童の場合、眼科学校検診というきっかけがなければ、発見されなかったであろう心因性の症状、自閉スペクトラム、家族間の問題などがある。症状に気付き、心理相談に繋げる医師、看護師、視能訓練士の存在は非常に重要である。カウンセラーはカウンセリングを通じ、必要な場合、医療、福祉、教育機関にそれぞれ連携しなければならない

 

症例紹介

描画による自由な時間で改善がみられた女児

[患者]小学4年生 女児 同胞1歳上の姉、保育園児5歳の弟

[主訴]学校検診での視力低下 黒板、掲示物、本の文字が見えにくい

[初診時初見]螺旋視野

[経過]母親と弟と来院。患者は口数が少なく積極的に話さない。弟は多動の傾向があり、診察室の中を歩き回り機具に触るため、母親の注意は弟に向けられて、カウンセリングに適した環境ではなかった。

第3回のカウンセリングから最初に女児だけ入室して自由に絵を描く時間をもった。「だれか」と名付けた本人を思わせる一人の女の子の絵を以後3回のカウンセリングで描き続けた。

誰にも邪魔をされない自由な時間を過ごすのが心地よいのか、カウンセリングを告げると飛び込むように入室し、黙々と描いた。

それと共に、学校では図書館が好きで、俳句の会に所属してコンクールに応募することなどをとつとつと語るようになった。

描画は女の子が一人の絵から、運動会、クリスマス会、マラソン大会など他の児童も描かれるものへ変わっていった。最終的に家族旅行へ行った時の家族全員が楽しそうに描かれ、初診から1年後、視野は正常範囲に回復し眼鏡使用で見えるようになった。

女児は一人で自由に描く時間を持つことで、興味のあることを楽しみ、友人を思う余裕が生まれ、それが視野改善にも繋がったのではないかと筆者は考えた。

カウンセリングの手法説明

描画療法

ほとんどはパーソナリティの理解・診断をするための一つの方法として心理診断の補助手段として使われるが、投影要素が強いため療法の技法として用いられることも多い。自発性があり、創造力を啓発し、描くことで治療、癒しとなり、作品として残るの視覚化できる。無意識的な不安、葛藤が反映されやすいことで表現できないものが示される。言語表現が不十分、苦手なクライアントにも施行できる。

樹木画(バウムテスト)、人物画、家族画、風景構成法、カウンセラーとクライアントが交互に描くスクイッグルゲーム、色彩分割法などがある。

認知行動療法 (CBTCognitive behavioral therapy)

認知行動療法は問題志向型の治療法であり、短時間で実施されることが多い。通常145~50分間5~20回のセッションで治療が行われるいまここで起きていること(here and now)に焦点をあてる。しかしながら、発達、家族背景、トラウマ、性格形成に作用する体験・教育・職歴など社会的影響を視野に入れておくことは、患者を十分に理解し、治療計画を立てるうえで極めて重要である。

認知行動療法の中核をなす理論は「感情は出来事から直接生じるのではなく、出来事をどのように評価したかという思考から生じる。そして思考は感情や行動と相互に影響しあう」というところにある。つまり、反応は刺激によって生じるのではなく、刺激の解釈などの認知的変数によって生じると考える。すなわち、個人の思考スタイルに焦点を当て、思考が変化すれば反応も変化するという理論を基本とした心理学における哲学である。

 認知行動療法の技法の目標は、認知と感情と行動の関連に注目しながら、患者が自分の認知の不適格さに気付き、それを理解し問題に対処する新しい方法を学習するように手助けすることである。

参考文献

八子恵子、山出新一、横山尚洋編集:心因性視覚障害、中山書店、1998

伊藤絵美:子どものための認知行動療法ワークブック、金剛出版、2006

「心理臨床における描画法研修」テキスト、2015

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心因性視覚障害とは:心因性視覚障害の原因、機序、そして治療法

 

 

 

 

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