未熟児網膜症による視力障害は、世界で今どうなっているのか
― JAMA Ophthalmology最新論文から見えてきた現実 ―
未熟児網膜症(ROP:Retinopathy of Prematurity)は、早産で生まれた赤ちゃんの網膜が十分に発達しないことにより起こる病気で、重症化すると失明に至ることもある、小児失明の重要な原因のひとつです。新生児医療の進歩によって多くの未熟児が救命されるようになった一方で、ROPによる視力障害が世界全体でどのように変化しているのかは、これまで十分に整理されていませんでした。
今回紹介する論文は、1990年から2021年までの30年以上にわたる世界規模のデータを用いて、ROPに関連した視力障害や失明の動向を詳しく分析したものです。研究の目的は、①ROPによる視力障害が世界でどのように推移してきたのかを明らかにすること、②どのような社会的・医療的要因が視力障害の多さと関係しているのかを調べること、そして③今後の将来予測を行うことでした。
研究には、世界204か国のデータを集めた「世界疾病負担研究(GBD 2021)」が用いられました。ROPによる視力障害を、軽度から失明まで重症度別に分類し、国や地域の経済水準、医療体制、教育水準、保険制度などとの関連を統計学的に解析しています。さらに、将来の動向を予測するために機械学習モデルも用いられました。
その結果、1990年から2021年までの間に、世界で約879万人がROPに関連した視力障害や失明を経験していたことが分かりました。世界全体の患者数は一見すると大きく増減していないように見えますが、その内訳には大きな偏りがあります。2021年時点では、経済水準の低い国ややや低い国が、依然として多くのROP関連視力障害を抱えていました。一方で注目すべき点として、中程度からやや高い経済水準の国々では、2005年以降、ROPによる視力障害が再び増加傾向にあることが示されました。
さらに詳しく調べると、ROPによる視力障害が多い国には共通した特徴があることが分かりました。妊婦健診が十分に行われていないこと、医療費の自己負担が大きいこと、公的医療保険の整備が不十分であること、看護師など医療スタッフの数が少ないこと、そして教育水準が低いことなどが、視力障害の多さと関連していました。つまり、ROPは単なる医療の問題ではなく、社会全体の仕組みや格差と深く結びついている病気であることが改めて示されたのです。
将来予測では、特別な対策を取らなければ、中程度の経済水準にある国々を中心に、ROPによる視力障害の負担は今後さらに増える可能性が高いとされています。新生児医療が発展しても、適切なスクリーニングや継続的なフォローアップ体制がなければ、視力を守ることはできません。
この研究は、未熟児網膜症による視力障害が、いまなお世界的に大きな課題であること、そして経済格差や医療体制の違いがその背景にあることを明確に示しています。今後は、すべての早産児が適切な眼科検診を受けられる体制づくりと、社会的弱者を取り残さない医療政策が強く求められると言えるでしょう。
出典
Emily S. Wong, et al.
Global and Regional Trends in Retinopathy of Prematurity
JAMA Ophthalmology, Published Online December 26, 2025.
doi: 10.1001/jamaophthalmol.2025.5103



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