小児の眼科疾患

[No.940] 乳児虐待症候群の眼症状が再び話題となっています:

清澤のコメント:眼科医諸兄にお願いです。乳児虐待症候群の眼症状が再び話題となっています。公立病院や大学病院の眼科では小児科や救急外来からの紹介(照会)を受ける場面も少なくないと思われます。
「重層性で多発性の網膜出血」というのが乳児虐待を疑わせるキーワードの様です。子供を暴力から守ることがまず大事です。しかし、相談された眼科医がうっかり「重層性で多発性の網膜出血」だから、「乳児虐待の症例である可能性が高い」と診断を下すと、その診断だけを決定的な根拠に、児童相談所による乳児の保護という美名と善意での「親と子の数か月を超える悲惨な引き離し」が始まってしまう恐れがあることも忘れないでください。(末尾に読売新聞の記事引用)
◎ 
AAO Quality of Care Secretariat, Hoskins Center for Quality Eye Care
Pediatric Ophth/Strabismus ⇒(PDF Version)
 というものがあって、その中には:
「眼科医は、虐待による頭部外傷が疑われる場合、相談の要請に迅速に対応できるように準備しておく必要があります。他の関連所見や負傷につながる可能性のある出来事の目撃歴に基づいて虐待による頭部外傷の疑いがある場合は、眼科への相談が適切です。さらに、発作や無呼吸など、原因不明の突然の生命を脅かす出来事を経験した子供には、相談が適切な場合があります。網膜出血は、受傷後 24 時間以内に回復し始めるか、ある程度悪化することさえあります。したがって、タイムリーな眼科的評価が重要です。写真による文書化は必須ではありませんが、後で所見を思い出すのに役立つだけでなく、医療関係者やその他の当局に網膜損傷の程度を伝えるのにも役立ちます。光コヒーレンストモグラフィーおよび静脈内フルオレセイン血管造影による補助的な検査も有用な場合があります。臨床メモは必須であり、 (手描きの図の有無にかかわらず)すべての眼の所見の数、範囲、パターン、タイプ、および側性を慎重に詳述する必要があります。調査結果は、多くの施設にある責任ある小児児童虐待チームと連絡を取る必要があります。そのような支援がない場合、眼科医は適切な州または地方の報告経路を通じて児童虐待の疑いを報告する法的義務を履行しなければなりません。目と眼窩組織の死後検査のためのプロトコルが公開されています。」との記載があります。
◎またイギリスでは2013年に 

Abusive head trauma and the eye in infancy August 2013

Eye (London, England) 27(10) DOI: 10.1038/eye.2013.192

にそれに対する対応のガイドラインがQ and Aの形で作成発表されています。Q(18)で: 偶発的な損傷は網膜出血を引き起こす可能性がありますか?に対してA(18)は、網膜出血 は偶発的な損傷ではまれです。大多数のレポートは、これらの 網膜出血が主に軽度であることを示唆しています。重症度が高く、主に片側性で、数は少ない網膜前または網膜内のいずれかで、後極に位置する、両側の広範な多層RHのパターンが後極から周辺に伸び、網膜分離症および網膜ひだに関連しています。と言っています。
(PDF) 虐待による頭部外傷と幼少期の目は. : https://www.researchgate.net/publication/262044308_Abusive_head_trauma_and_the_eye_in_infancy [accessed Sep 18 2022].です。

◎ 児童虐待:虐待による頭部外傷後の網膜出血の解剖学と病因

著者:ギル・ビネンバウム、MD、MSCE
セクション編集者: Evelyn A Paysse, MD
ダニエル・M・リンドバーグ医学博士

前書き:

ここでは、虐待による頭部外傷 (AHT) における網膜出血の病因について概説します。 「児童虐待: 虐待による頭部外傷 (AHT) のある児童の眼の所見」

バックグラウンド
AHT は、非偶発的な頭部外傷、負った頭部外傷、または負った小児期の神経外傷としても知られています。1 つのサブセットは乳幼児揺さぶられ症候群と呼ばれ、頭部への鈍的衝撃を伴う、または伴わない反復的な加減速損傷を特徴とする幼い子供の受傷群である [ 1-5 ]。特徴的な臨床的特徴には、網膜出血(常にというわけではありませんが、しばしば両側性、多層性、および広範囲)、頭蓋内損傷(頭蓋内出血および/または低酸素性虚血性損傷)、および/または潜在的な骨折(特に肋骨および長骨骨幹端の)が含まれます。虐待が検出される前に、トラウマの複数のエピソードが発生する可能性があります [ 6-9 ]。早期認識は命を救うことができます。

解剖学:網膜はいくつかの層で構成されています 。網膜血管は、網膜の神経部分に含まれています 。大きな血管は、神経線維と神経節細胞層を通過します。より小さな血管は、神経線維と内核層の間に位置しています。網膜毛細血管には 3 つの層があります: 神経線維と神経節細胞層内のもの、内核層のもの、放射状乳頭周囲毛細血管です。

病原性:概要 — 網膜出血の発症に関与するメカニズムがいくつか提案されています。最も広く受け入れられているのは、硝子体網膜牽引関連の損傷です。異なるタイプの網膜出血は異なる機序を持ち、任意の例で複数の機序が作動する可能性があります

剖検研究は、意図しない (偶発的な) 頭部外傷の犠牲者と比較して、AHT 犠牲者の眼窩出血の割合が高いことを示しています 。AHT における眼窩および硬膜下出血の発症には、反復的な加減速 (振とう) 力が主要な役割を果たしているようです [ 11-16 ]。AHT における硬膜下出血の病因における反復的な加減速力の役割については、別途説明します。

  ーーーー読売新聞の関連記事ですーーーーーー

「乳児揺さぶり」実態調査 厚労省 無罪判決相次ぎ 虐待対応の手引 見直しも

 赤ちゃんの頭を激しく揺さぶると、脳が負傷するとされる「乳幼児揺さぶられ症候群」(SBS)を巡る児童相談所の一時保護について、厚生労働省が実態調査を進めている。同省の手引は、特徴的な3症状が見られれば、虐待を疑うよう児相に求めているが、刑事事件で無罪判決が相次ぎ、医学界でも見解が分かれているためだ。同省は調査結果を踏まえ、手引の見直しを含めて対応を検討する。(増田尚浩)

 ◇ 隔離1年半

 大阪府守口市の会社員菅家かんけ英昭さん(47)は2017年11月、SBSの疑いで長男(4)が府の児相に一時保護され、約1年半にわたって離ればなれになった。

 菅家さんによると、同年8月、自宅で妻(40)と一緒にいた生後7か月だった長男がソファにつかまり立ちした際、後ろ向きに転倒。病院で硬膜下血腫などと診断された。児相から虐待を疑われ、長男が退院した同年11月、「虐待の可能性がゼロではない」と一時保護され、そのまま乳児院に入所措置となったという。

 18年9月には、妻が府警に傷害容疑で逮捕された。しかし、まもなく釈放され、3か月後に不起訴(嫌疑不十分)に。夫妻が依頼した脳神経外科医が「転倒で起きた症状で虐待ではない」との意見書を出していたことも影響したとみられる。

 長男は自宅に戻ったが、後遺症が残っており、今は歩行器でリハビリしている。

 今年1月、菅家さんは、厚労省の一時保護のあり方に関する有識者検討会に出席し、意見を述べた。菅家さんは一時保護の必要性は認めた上で「今も子どもと離ればなれになる不安に襲われる。虐待ありきの対応を改めてほしい」と訴えた。

リハビリ中の長男を支える菅家さん夫妻。「息子の成長が何よりの喜び」と語る(大阪府守口市で)
リハビリ中の長男を支える菅家さん夫妻。「息子の成長が何よりの喜び」と語る(大阪府守口市で)

◇ 無罪15件

 厚労省によると、SBSの疑いで死亡したとされる子どもは13~18年度で計28人に上る。

 同省の虐待対応の手引は、乳幼児で▽硬膜下血腫▽眼底出血▽脳浮腫――の3症状がみられ、経緯が不明な場合、SBSを第一に考えるよう求めている。

 しかし、弁護士らでつくる「SBS検証プロジェクト」(大阪市)によると、SBSが疑われた刑事事件で、14年以降に少なくとも15件の無罪判決が出ている。

 19年10月には、生後2か月の孫娘を死亡させたとして傷害致死罪に問われた祖母(71)について、大阪高裁は、脳神経外科医の証言などから「病死の可能性がある」として無罪を言い渡し、「3症状はSBSだとする考え方を単純に適用すると事実誤認する恐れがある」と疑問を示した。

◇ 現場は困惑

 厚労省は今年度、SBSを巡る一時保護の実態調査を進めている。

 国内外の関連する文献を収集し、各児相の対応状況などを調べ、年度末に報告書をまとめる予定だ。調査結果を踏まえて、SBSに関する手引の記述が見直される可能性がある。

 現場では困惑も広がる。

 西日本の児相担当者は「虐待ありきではなく、第三者の医師に意見を求め、総合的に判断している」とするが、「家庭内の出来事の判断は難しく、少しでも疑いがあれば、家庭に戻すことには慎重にならざるを得ない」と漏らした。

 ◇ 小児科、脳神経外科 見解割れる

 小児科医と脳神経外科医で見解が異なっている。

 「日本小児科学会」は昨年10月、最高裁に意見書を提出した。

 同学会はSBSを含め、意図的に力を加えたことによる頭のけがを「虐待による乳幼児頭部外傷」(AHT)と呼び、「家庭内の事故で重篤になったケースは確認されていない」と主張。意見書では、相次ぐ無罪判決に「3症状だけではなく、他の症状も踏まえて総合的に診断している」と指摘し、裁判で医学的証拠を積極的に採用することや、裁判に際し、複数の医師に鑑定を依頼する「共同鑑定制度」の導入を提案した。

 一方、「日本脳神経外科学会」は昨年4月、厚労省に手引を見直す検討メンバーに脳神経外科医を加えるよう求めた。前理事長の新井一・順天堂大学長は「SBSに伴う病態は、虐待だけでなく、家庭内の事故でも起きうる」とし、「手引には事故の可能性も併記するべきで、科学に基づく適正な判断基準を示すことが求められる」と話している。

 ◇ 家庭環境 調査し見極めを 

 日本弁護士連合会子どもの権利委員会委員の浜田真樹弁護士の話

「児童福祉は、刑事事件の『疑わしきは罰せず』とは異なる。子どもが家庭で原因不明の重傷を負えば児相が介入するのは当然だ。一方、親子が不必要に長く引き離されることはあってはならない。児相には、家庭環境などを調査して原因を見極め、柔軟に解決策を探る対応が求められる」

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