社会・経済

[No.3767] 食料と戦争──眼科医が考える栄養と健康の関係

食料と戦争──眼科医が考える栄養と健康の関係

出典:JAMA Revisited, 2025724日公開, 初出1940817 JAMA 115(7):536-537. DOI:10.1001/jama.2024.18907

第二次世界大戦の開戦直後、JAMA誌は「戦争と栄養」の重要性に警鐘を鳴らす論説を掲載しました。この記事では、軍や民間の食糧確保がいかに国家の根幹に関わるか、そしてそれが国民の健康にどれほど影響を与えるかが明確に語られています。

第一次世界大戦の反省として、多くの国が戦時中に食料供給を誤ったことで、重大な健康被害が生じました。たとえばオランダやデンマークでは、輸出目的でバターが他国に売却され、国内のビタミンAが枯渇。結果として、子どもたちの間に眼球乾燥症(xerophthalmia)が多発しました。ビタミンA欠乏によるこの疾患は、眼科領域では失明につながる重大な病態です。

また、ドイツでは食料封鎖により慢性的な栄養失調が広がり、結核の発症が急増しました。イギリスも食料難に直面し、当時は卵・牛乳・野菜中心の食事を基本とし、肉を週に何日か省くような政策を取っていたことが報告されています。

栄養の重要性は軍隊でも認識されていたものの、医療部門の提言が即座に採用されることはなく、例えば陸軍に栄養士官を設置する決定には半年を要しました。この遅れが、兵士の健康をどれほど損ねたかは計り知れません。

1940年当時、アメリカ国内には複数の食料供給・衛生・農業関連機関が乱立していましたが、統一的な指揮体制や調整機構は存在せず、栄養学の専門家も政策決定に関与していなかったと記事は批判しています。JAMA誌は、戦時下における国家的な栄養戦略こそが健康と安全保障の礎であると強く主張しています。

医療者の視点から見た「食」と「戦略」

眼科診療においても、ビタミンA不足による眼疾患は今なお見られます。戦時中の教訓として、「国の政策と市民の栄養状態が直結する」という視点は、災害や感染症流行時にも極めて重要です。たとえば最近の新型コロナウイルス感染拡大に際しても、学校給食の停止や家庭の困窮が子どもの栄養状態に及ぼした影響は見逃せません。

そして現在、私たちが目の前の患者に食生活の指導を行うときにも、「栄養は病気を予防する第一の盾である」という視点を改めて心に留めたいものです。たとえ戦火に包まれなくとも、健康を守るための栄養戦略は、すべての時代において不可欠なのです。

参考文献:
JAMA Revisited. Food and the War. JAMA. 1940;115(7):536–537. Reprinted online July 24, 2025. DOI: 10.1001/jama.2024.18907

清澤の追記;ビタミンA欠乏による眼球乾燥症(がんきゅうかんそうしょう)は、目の粘膜が乾いてしまう病気で、特に子どもや高齢者、栄養状態が悪い人に起こりやすいです。ビタミンAは、目の表面を潤す涙や粘液を正常に保つために欠かせない栄養素です。これが不足すると、まず目が乾く・ゴロゴロする・まぶしさを感じるといった軽い症状が現れます。進行すると角膜が濁って視力が低下し、さらに重症化すると角膜が溶けて失明することもあります。

この病気は、開発途上国で今も子どもの失明原因として問題になっており、戦争や飢饉などで食料が不足したときに発生しやすくなります。ビタミンAは、レバー、うなぎ、卵黄、緑黄色野菜(にんじん、ほうれん草など)に多く含まれており、バランスの良い食事をとることで予防できます。目の健康のためにも、日々の食生活がとても大切です。

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