
清澤のコメント:日本の医療・介護分野は、自動車産業に匹敵する規模をもつ重要な産業です。彼らが指摘している「患者は賢くあるべきであり、医療の無駄は省かれるべきだ」という主張は、ある意味でまったくその通りだと言えます。しかし一方で、患者自身が主体的に、自分に必要な医療を見極めて選択しなければ、その影響や不利益は結局ご本人に返ってきてしまいます。
◎ 医療費50兆円時代と「医療のかたち」を考える
先日、とある動画番組で「日本の医療費と医療構造のゆがみ」について、複数の専門家が率直に語り合う場面がありました。内容はなかなか刺激的でしたが、私たち医療現場にいる者としても考えさせられる点が多く、ここに要約してご紹介します。
■ 医療費はついに「50兆円」に迫る
財務省の資料によれば、2024年度の医療費は48兆円。まもなく50兆円規模に達する見通しです。比較として、国の公共事業費全体は年間7兆円ほど。橋をつくり、道路を直し、トンネルを維持するすべての費用を合わせてもこの規模ですから、医療費の大きさは際立っています。
また、医療費の財源である保険料と税負担は、2025年に**国民負担の46%**に達するとの予測も示されました。会社員の方にとっては実感のある話でしょう。
■ 「必要ない医療」が行われる構造
議論の中で特に印象的だったのは、「医療行為A」が不要または有害と医師自身が感じていても、病院経営の事情から行わざるを得ないという実態調査です。
あるアンケートでは、“不要だと分かっていても、その治療を行う”と答えた医師が72.5%にのぼったとの結果が示されました。
医療者の多くは患者さんの利益を第一に考えています。しかし現場では、
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訴訟リスク
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家族からの苦情
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病院経営の事情
などが複雑に絡み、避けられるはずの治療が行われることもある――という問題が指摘されたのです。
特に終末期医療では、点滴によってかえって苦痛が増すこともあるのに、慣習的に治療が続けられるという看護師さんの声も紹介されました。
■ 「病床数が多すぎる日本」という問題
医療費の増加を支える構造として、日本は病床数が世界で最も多いという特徴があります。
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日本:人口1000人当たり13床、ドイツ:8床、フランス:6床、イギリス:2.5床と大きな差があります。病床が過剰にある地域ほど入院費が高くなる傾向も示され、高知県と神奈川県では1人当たりの入院費に「約1.7倍」の差があると紹介されました。病床が多いほど、埋めるための医療が増え、医療費が積み上がる――という構造が浮かび上がります。
■ 健診・検診のあり方も見直しが必要?
海外では大規模な研究の結果、「健診を一律に受けても寿命は伸びない」というデータがあり、日本ほど頻回の検診を制度化している国はないとの指摘もありました。もちろん、早期発見で救える病気はあります。しかし「全員に同じ健診を義務づける」ことの合理性は、今後見直す必要があるのかもしれません。
■ 患者側も“賢く”医療を選ぶ時代へ
番組で話していた専門家たちは、決して医療を否定したいわけではありません。「医療は尊い。しかし構造的な歪みがある」という現実を共有し、国民が正しい理解を持つことで、より良い制度や医療の方向性を考えたい――という立場でした。
日本の医療は世界でも質が高く、私自身もその現場を誇りに思っています。一方で、医療資源には限りがあります。これからの時代、患者さん自身も、
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本当に必要な医療か
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説明が十分か
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治療の目的は何か
を理解して選ぶ姿勢が大切になっていくでしょう。
■ 院長コメント
医療費の増加や制度のゆがみについては、医療者にとっても他人事ではありません。私自身、不要な医療を避け、患者さんとよく話しながら「本当に必要なこと」を一緒に考える診療を続けたいと思います。医療をよりよい形に変えていくためには、医療者・行政・国民が同じ情報を共有し、冷静に議論することが重要です。



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