社会・経済

[No.353] 医療機関に政府・自治体のガバナンスを 日経ほかの緊急提言:

医療機関に政府・自治体のガバナンスを 日経ほかの緊急提言:

清澤のコメント:日本経済新聞に提言が掲示された。その要点を採録して見よう。相当に切って短縮したがまだ膨大な内容である。私の気持ちとしてはコロナ感染の医療機関関連のクラスター発生を恐れるあまり、全ての一般医療機関がコロナの診療を忌避したことは非難されて当然であったと思う。感染予防策をとったとしても爆発的な感染拡大を遅らせて、その間にワクチン接種を進めるというのが行政の正しい対応であったのだろう。また病院がコロナ病床を確保し、行政に協力するという姿勢を示したのだが、この裏に一般病棟としてコロナ治療以外の医療の実践をするよりも経営的にその方が有利だったからという事情があったとすれば批判されてしかるべきだったと思う。医療体制の改革は医師会サイドでも容易ではなさそうだ。 

 ―――清澤の要約―――

新型コロナ 2022221 2:00

新型コロナウイルスのパンデミックが日本の医療体制の脆弱性を浮き彫りにした。医療機関が抱える人口当たり病床数は、日本が最多である。コロナ感染の勢いは世界的にみて弱いにもかかわらず、患者が十分な治療を受けられない事例が相次ぎ、救える重症患者を死なせる事態が発生した。日本経済新聞社と日本経済研究センターは医療改革研究会を組織し、緊急改革提言をまとめた。

I. 全国の医療データを可視化

新型コロナを「ふつうの感染症」に

政府は2020年、新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけを2類相当とし、公衆衛生上の対応を求めてきた。しかし、新型コロナは重篤な症状をもたらし致死率がきわめて高い1類の感染症より厳格な扱いにしてきた。

政府は最近一部の運用を緩和した。当初は慎重な対応が必要だった。しかし使い方が必ずしも賢明でない面がある。現在、流行第6波を迎えている「オミクロン型」は、感染力が強いが、罹患者の多数は軽症で済んでいる。オミクロン型の感染が下火になるのを条件に、新型コロナの位置づけを季節性インフルエンザなどと同じ5類相当に切り替えるべきだ。新型コロナの扱いは「ふつうの感染症」になる。

オミクロン型の患者の治療で担う診療所の役割が大きくなる。風邪症状の軽症患者は診療所で診療する態勢を整えねばならない。患者が現役世代の場合、原則として医療費や薬代の3割を払う仕組みに変わる。「ふつうの感染症」に対する治療体制に移行すれば、コロナ以外の医療が滞り気味だった医療体制も改善が見込めよう。

病床確保に政府のガバナンスを

現場で明らかになったのはコロナ治療に積極的に取り組む医療機関とコロナ患者を忌避する医療機関との二極化だ。二極化は、地域により感染急拡大期に病棟・病床の逼迫をもたらし、自宅療養の患者が死ぬ状況も生んだ。医療機関には、政府・都道府県が強制力を伴って医療提供体制の確保を指示できる仕組みを構築すべきだ。医療提供体制について政府・自治体がコントロール権をもつのは当然。コロナ禍による病床逼迫の一因として、人材・資源の現状を、当局が把握できなかった。各機関から人材や病床状況を報告する仕組みを構築すべきだ。体制整備は大規模災害発生時の患者に医療を届けるにも必要。

ふだんから不測の事態に備えるための連携を密にすべき。ワクチン接種証明、感染者との濃厚接触を確認できるシステム開発なども要になる。整合性の取れた改正法案づくりには時間を要する。政府は早急に作業に着手すべきだ。今夏の参院選を意識し、医療団体などの不興を買いそうな法改正を先送りするというなら言語道断である。今からでも遅くはない。首相官邸・内閣官房・厚労省などが協力して感染症法改正案を作成し、早急に国会に提出すべきである。

医療有事の司令塔を新設

過去2年あまりの政府のコロナ対応は、内閣官房の新型コロナ対策推進室と厚労省との二元体制で担ってきたが、病床確保に責任をもつ都道府県や公衆衛生上の措置を講ずる保健所との連携がスムーズだったとは言い難い。ワクチンのブースター接種(3回目の接種)は遅れに遅れた。

医療界の資源や人材を総動員できる有事の司令塔が政府に必要である。厚労省と医療団体の間にみられるような官業のなれあいを排し、必要十分な対策を遂行するのがその使命である。また危機時には公共の利益を優先するために個人のプライバシー保護を一定程度、制限する仕組みも課題になる。

Ⅱ. 医薬イノベーションで早期承認

臨床データ集め治験を効率化

よい薬の候補がみつかっても承認を得るまでが長いのが新薬開発の最大の課題である。パンデミックという緊急時はプロセスを効率化し有効性・安全性の高い薬を医療現場に迅速に届ける態勢を整える必要がある。コロナ感染症の拡大という状況で一刻も早く承認薬が必要な場合、できるだけ多くの被験者が参加する治験を急ぐのが基本だ。

新薬研究を治療に結びつけるため、全国の臨床研究中核病院を指定した。すべての拠点に参加を求め、「国主導治験」でデータを集約・解析できるようにすべきだ。日本医療研究開発機構(AMED)で戦略的に全国規模の治験計画を組める人材、組織を整える必要がある。

自宅にいながら治験に参加できる在宅型治験の環境整備も急ぐべきだ。薬の有効性、安全性を確かめるのは臨床研究や治験だけではない。欧米主要国は新型コロナのワクチン、治療薬のリアルワールドデータを集め、使用法の改善や適用拡大、より効果的な薬の開発に生かしている。

全国規模のデータ解析は厚労省からの委託事業として進めるレジストリの内容を充実させ、研究に参加していない機関や企業を含め広範な利用を可能にすべきだ。データベースのオープン化は人工知能(AI)と組み合わせた新しいアイデアの創出にも道を開く。

有事の承認審査を確立

「国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがある疾病のまん延その他の健康被害の拡大を防止するため緊急に使用されることが必要な医薬品であり、かつ、当該医薬品の使用以外に適当な方法がないこと」に加え、海外で承認されていることが条件になる。米国食品医薬品局(FDA)が緊急使用許可を出したものを、ほぼ自動的に特例承認している。

国の安全保障上の観点からも国産品の実用化を急ぐべきだ。

パンデミック発生など緊急時の措置として、米国の緊急使用許可に類する仕組みが必要になる。安全性と一定の効果が見込めれば市販後もデータを集め検証を続けることを条件に使用を認める。緊急使用許可で国民が得られる便益と、使用が遅れてパンデミックが深刻化するリスクとをてんびんにかける考え方を根づかせるべきである。

コロナワクチンの開発を主導したのはバイオ医薬に強みをもつ欧米のベンチャー企業や大学などの研究機関である。日本はバイオ医薬分野の強化を怠ってきた。バイオベンチャー企業の育成もめざすべき国家戦略の一つである。

Ⅲ. 社会保障の負担・給付改革に着手せよ

2020年度以降、政府・与党はコロナ対策費として70兆円を超す予算を使ってきた。結果として人口あたりの対策額は主要国で最も高くなっている。

また病院補助金の制度設計が粗雑で、コロナ対策の費用対効果は低かったと言わざるを得ない。政府は根拠に基づく予算編成を徹底すべきだ。

19年度の社会保障給付費は123兆円だった。不足する財源を確保するための負担構造改革に早く着手することが必要だ。行程は医療・介護給付費の増大を抑える制度改革を実行しつつ、国・地方自治体の基礎的財政収支を黒字に転換させ、消費税率10%後の行程表をつくる――という長期戦になる。

医療・介護給付費の膨張抑制には、患者や利用者の自己負担引き上げという財政対策と、デジタルデータを駆使することによる制度効率化との合わせ技が求められる。

AIを活用した診断アプリの実用化は軽い病気の初期診療などに役立とう。また超高速・大容量の5Gデジタル回線による遠隔診療が軌道に乗れば、医療サービスの地域格差が緩和されるとともに、医療費の抑制にも資する。

消費税増税の先送りが国民負担の構造をゆがませている。政府は現役世代から健康保険料の一部を召し上げ、高齢者の医療費に回す「ステルス増税」でしのいでいる。こうした「取りやすいところから取る」やり方には終止符を打つべきだ。

社会保障と消費税に関する改革を政争の具にしていては、実現はおぼつかない。

(医療改革研究会メンバー)

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