仮想通貨取引所FTX社およびその関連会社アラメダ社の破綻ニュースは、週末をはさんで世界をかけまわっています。その破綻に至る速さが人々を驚かせています。経営者がドバイに逃亡しようとしてバハマで拘束されたなどという記事も流れています。(⇒コインテレグラフ記事リンク)
事件の全体像を把握するために、ヤフーニュース今朝5時の記載を採録します。(⇒記事にリンク)
ーーーーhttps://news.yahoo.co.jp/articles/3bb60d4887c842316e9961fe8ee376d3554f16c2?page=1ーーーー
① 混乱広がる暗号資産(仮想通貨)取引所FTXの経営破綻:繰り返された問題
暗号資産業界で最大規模の経営破綻に
NRI研究員の時事解説
資金不足に陥っていた暗号資産(仮想通貨)取引所大手のFTXトレーディングは11月11日に、日本の民事再生法に相当する連邦破産法11条、いわゆるチャプター11の適用を申請した。FTXの創業者で最高経営責任者(CEO)のサム・バンクマン・フリード氏は辞職している(コラム「再び激震が走る暗号資産(仮想通貨)市場:大手取引所FTXの破綻懸念」、2022年11月11日)。 FTXの経営破綻は、暗号資産業界で最大規模となる見込みだ。11日にFTXトレーディングが裁判所に提出した資料によると、資産額と負債額はともに100億ドルから500億ドルの範囲内とされている。FTXと同時に破産申請し、今回の危機の引き金となったバンクマン・フリード氏の投資会社、アラメダ・リサーチについても、負債総額は100億~500億ドルだったという。未確定ながらも負債総額は数兆円規模に達し、暗号資産業界で最大規模の経営破綻となる見込みだ。 また、FTXが投資家に説明した財務情報によると、FTXの米国事業を除くグローバルサービスは90億ドルの負債を抱える一方、すぐに売却可能な流動性資産は9億ドルしかないという。これは、FTXの債権者が短期間でとり戻すことができる債権の割合が、かなり小さくなることを意味する。
「錬金術」的な経営手法が行き詰まった
FTXの破綻の背景には、暗号資産の取引業務にとどまらず、裏付け資産のないトークンFTTを支払い、借り入れ担保などに金融資産として利用しながら、企業買収などビジネスを拡大してきた、いわば同業界に特徴的な「錬金術」的な経営手法を拡大させ、それが行き詰まったという面がある。さらに、財務についての情報開示が十分になされず、またビジネスを外部から監視するガバナンスが機能していなかったことから、そうした実態が外部から十分に認識されないままにビジネスが急拡大していたという問題もある(コラム「再び激震が走る暗号資産(仮想通貨)市場:大手取引所FTXの破綻懸念」、2022年11月11日)。 さらに、FTXは暗号資産取引のために約100万人とされる顧客から預かった160億ドルのうち、約100億ドルをアラメダ・リサーチに貸し付けていたという、経営者の不公正な取引も問題として明らかになっている。 そうした中、顧客はFTXに預けた自身の資産が取り戻すことができなくなることを恐れ、それを引き出そうとしたが、既にFTXの口座から暗号資産や現金を引き出せなくなっている。
② FTXからの資金の不正流出が発生
そうした中、FTXからの資金の不正流出が起こっている。連邦破産法11条(チャプター11)の適用申請後、FTXは口座(ウォレット)を統合するとともに、インターネットから切り離したコールドウォレットにする作業を進めているが、それが完了しない段階でインターネットを通じた不正な引出しが行われ、顧客資金が奪われたとみられる。 ウォールストリート・ジャーナル紙の報道によると、約3億7,100万ドルがハッキングによってFTXから不正に引き出されたという。そのうち2億2,200万ドルは直ぐにステーブルコインのdai とetherに交換されたようだ。この不正引き出しによって、FTXの顧客が取り戻すことができる資産はさらに減額されるだろう。そして、今後の破綻処理にも大きな影響が及ぶだろう。 日本が舞台となった2014年のマウントゴット事件、2021年のコインチェック事件は、いずれもハッキングによる資産流出がきっかけとなって、経営破綻あるいは経営不振につながっていった。今回は、経営破綻懸念がハッキングによる資産流出のきっかけを作った印象があり、従来とは異なるパターンである。 ただし、ハッキングによる資産流出によって、FTXが顧客のウォレットをインターネットから切り離さずに、ハッキングのリスクがあるホットウォレットで杜撰に管理していたことも明らかになってしまった。
過去の事件に学んでいない
さらに、FTXは顧客に提供する暗号資産の預金に、年8%などの高い利息を約束していた。これは「USテラ」でも見られた運用ビジネスであるが、暗号資産の価格上昇を前提としたリスクの高いビジネスモデルである。 FTXは、情報開示の欠如、ガバナンスの欠如、顧客資産の分別管理の欠如、顧客資産の流用、顧客資産のホットウォレットでの不適切管理など、過去の暗号資産取引所の事件で見られた経営上の問題点をすべて含んでいる感があり、過去の事件に全く学んでいない印象だ。 さらに、暗号資産の価格上昇を前提として資産の裏付けのないトークンを発行し、それを通じて「錬金術」的な経営手法を行っていることや、顧客に高い利回りでの運用を保証しているなど、やはり過去の暗号資産取引所の事件でも明らかになった問題のあるビジネスモデルを継続していた。
③ 混乱広がる暗号資産(仮想通貨)取引所FTXの経営破綻:繰り返された問題
2つの環境変化は暗号資産市場に冬の時代をもたらす
こうしたビジネス慣行が横行した背景には、低金利環境の下、伝統的な金融市場では投資家は期待する収益を上げることができない、という事情があり、そうした投資家の不満を救い上げる形で暗号資産ビジネスが急成長してきた。 しかし、ステーブルコイン「USテラ」の暴落に続き、今回の暗号資産大手のFTXの経営破綻によって、暗号資産市場と暗号資産ビジネスに対する投資家の信頼性も大きく傷ついたことだろう。加えて、世界規模での物価高騰と大幅な金利上昇を受けて、伝統的な金融資産の運用利回りが上昇し、暗号資産に投資する魅力が低下している。こうした2つの環境変化は、暗号資産市場に冬の時代をもたらすことになるだろう。 今後予想される規制強化と業界の浄化作用を通じて、暗号資産市場、あるいは分散型金融(DeFi)が信頼を取り戻し、いずれは伝統的金融と補完的な新たな役割を見出すようになることを期待したい。
(参考資料)
“Bankrupt Crypto Exchange FTX Probing Unauthorized Transactions”, Wall Street Journal, November 12, 2022
“Alameda, FTX Executives Are Said to Have Known FTX Was Using Customer Funds””, Wall Street Journal, November 12, 2022
「仮想通貨FTXの売却可能資産、負債の約1割か 破綻前」、2022年11月13日、日本経済新聞電子版
「破綻のFTX、数億ドル規模の不正引き出しか 米報道」、2022年11月13日、日本経済新聞電子版
「暗号資産大手が破綻 米破産法、適用申請 FTX」、2022年11月13日、朝日新聞 「激震の仮想通貨、破産法申請した交換業者FTXとは?-イチからわかる金融ニュース」、2022年11月12日、日本経済新聞電子版
木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) — この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英
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