「データサイエンスによる網膜診療 鹿児島大学坂本泰二教授(病院長、副学長)」を聞いて来ました。その印象を記載します。
難治性で視力低下を残すことのある中心性漿液性脈絡網膜症について
中年男性に見られる中心性漿液性網脈絡膜炎CSCRの中に、遷延化して視力低下を残すことのあるものが少数ながら(12%が10年間で0.1に終わる)あります。その治療は困難で最終的に視力低下を残しやすいのですが、鹿児島大学の教授に講演会の後のフロアでどのような方法があるかを伺いました。調査を加えてその特徴と治療法を詳しく述べます。難治性で遷延化するという条件で英語の文献も調べました。
頻度等
中心性脈絡網膜症CSCRは、最近の眼科学界で脈絡膜が肥厚する特殊な疾患の一つである点が注目されているものです。中心性脈絡膜網膜症は30〜50歳代の男性に多く見られ、特に30〜40歳代に発症することが多い疾患です。男性は女性よりも3倍以上発症しやすいとされています。再発率は30〜40%と高く、再発を繰り返すことで遷延化し、視力低下を残すことがあります。
中心性脈絡網膜症の特徴(最初の症状は加齢黄斑変性に似ています。5ラインズというOCT画像でCSCRの存在は明確に診断できます。)
- 視力低下: 視力が低下し、物がぼやけて見えることがあります。
- 中心暗点: 視野の中心部分が暗く感じることがあります。
- 変視症: 物が歪んで見えることがあります。
- 小視症: 物が実際よりも小さく見えることがあります。
- 色覚異常: 色が異なって見えることがあります。
治療法
- 自然治癒: 加齢黄斑変性とは異なり、多くの場合数カ月から半年で自然に治癒しますが、遷延化するケースでは追加の治療が必要です。
- 薬物治療: 国際的には黄斑部の腫れを抑える薬(例:ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)を使用することがあります。しかし日本ではこの薬剤を現在は入手できません。
- レーザー治療: 液体が漏れている部分にレーザーを照射して治療する最も一般的な方法です。ただし、黄斑の中心に近い場合は実施できないことがあります。
- 光線力学療法(PDT): ベルテポルフィンを用いたPDTは、加齢黄斑変性に用いられますが、これが特に再発性や難治性のCSCRに対しても有効とされており、鹿児島大教授によれば、この方法が日本では現在は最も実際的で有効かもしれないとのことでした。
これらの治療法は、患者の症状や病状に応じて選択されます。特に難治性のケースでは、専門医の診断と治療が重要です。
文献等
- Yannuzzi, L. A. et al. (2003). “Central Serous Chorioretinopathy: A Review of Pathophysiology and Treatment Options.” Retina, 23(6), 795-814.
- Wang, M. et al. (2018). “Central Serous Chorioretinopathy: An Update on Pathophysiology and Treatment.” Eye, 32(2), 362-373.
- 日本の光線力学療法(PDT)実施施設
日本の病院でも光線力学療法(PDT)を実施している医療機関は多数ありますが、以下にいくつかの関東での主要な施設を挙げます:東京医科大学病院・日本医科大学付属病院・杏林大学医学部付属病院・千葉大学医学部附属病院。これらの施設では、PDTを用いた治療も行われており、特に難治性の中心性脈絡網膜症(CSCR)に対しても対応しているようです。網膜光凝固で対応できない場合などでは、詳細について、各施設に直接お問い合わせいただくと良いでしょう。 全国の光線力学的療法(PDT)による滲出型加齢黄斑変性の治療に対応する病院・クリニック : PDT(光線力学的療法 | 先進的な医療 | FEATURE(特集)から抜粋。
ご講演の 最後のコメントでは、①研究ではすぐに結果を求めるべきではない。②研究テーマ選択における選択と手中の危うさ。③起業を奨励する風潮の誤り。を述べられたのが耳に残りました。「部分最適解は全体の最適解を与えるとは限らない」という意味かと理解しました。また、稲森和夫氏の肖像を示して「利他の心を持った運営しか成功しなかった。」という教訓を紹介されました。強く納得しました:
コメント