網膜剥離:1万人に1人の割合で起こる怖い網膜剥離 、飛蚊症などの自覚症状に注意して、いち早い受診を:ドクターのよもやま話2 (古い自著のトレボーノ記事に加筆しての再掲です)
普段は、あまり気にならないけれど、目の前に絶えずゴミの様なものがフワフワと浮かんで見えるという人は結構多いのではないでしょうか。
蚊が飛ぶと書いて、飛蚊症(ひぶんしょう)と呼ばれる症状ですね。これは、まれにではありますが、網膜剥離の初期に見られることもあります。危険な兆候がないか、充分気をつけておきたいもの。
今回は飛蚊症と失明につながりかねない網膜剥離についてお話ししましょう。
眼球内部に生じた硝子体の変化が眼前を飛び回る蚊の正体
眼球の内部は硝子体と言われるゼリー状のものでみたされています。それを、光を感じる神経の膜である網膜が包み込み、さらに脈絡膜と呼ばれる血管でできた膜が覆い、その一番外側を白い強膜が包み込んで、眼球を構成しています。
歳をとったり、近視が進むと、眼球は前後に長い楕円状に変形します。それに伴って硝子体のゼリーが水と分離して前方に移動し、水分だけが後方に取り残されるようになります。この状態を後部硝子体剥離といい、網膜からはがれた痕などが硝子体について、まるで目の前にゴミが浮かんでいるように見えるわけです。飛蚊症の多くは、この網膜がとらえたゼリー状の影であるため、とくに心配する必要はありません。
網膜剥離の診断は念には念を入れて1か月後にもう一回がベスト
ただ稀に、硝子体と網膜に癒着がある場合など、眼球を動かすことによって、癒着部分の網膜が引っ張られ、やがて網膜の一部が破れて孔が開く(網膜裂孔〔もうまくれっこう〕)ことがあります。このとき、網膜の一部がちぎれたり、網膜の血管が切れて出血したりします。それにより、飛蚊症の症状が現れる、また、ゴミなどの数が急激に増える、さらに出血が激しい場合は視力が突然落ちてしまうこともあります。これを放置しておくと、やがて眼球内の硝子体から分離した水が網膜の下に入り込みその外側の膜から網膜をはがしていく、網膜剥離がはじまっていきます。
こうなると一刻も早く治療を行わなければなりません。網膜の真ん中まで剥離が進んでしまうと、視力が急激に低下し、たとえ手術が成功し網膜が戻ったとしても、視力の回復は限られたものとなってしまいます。早期に手術が行われ、最初に破れた箇所が閉じられると、剥がれた網膜は自然に張り付いてもとに戻ることも可能なのです。ただ、一部でも孔が残ってしまうと、自然にふさがることはないため、網膜剥離はおさまらず再手術が必要となるでしょう。
飛んでいる蚊の量が増えた、突然濃く、大きくなった、縁の方からカーテンが降りるように視野が挟まってきた、頭を強くぶつけたなど。また、暗い場所で白い光が見える(光視症)、障子の桟など、本来まっすぐな線が曲がって見える(変視症)なども、網膜剥離の兆候を歌川なくてはなりません。破れた網膜剥離は、いち早く自覚症状に気づき、眼科を受診して治療を受けることが、もっとも重要なのです。
注:私が担当した古い「トレボーノ」の記事を友人が見せてくれたので、多少改変し、追記を付して採録します。最近の網膜剥離手術のやり方としては手術方法として、強膜内陥術(バックリング手術)と硝子体手術(ビトレクトミー)が主に行われています。2016年から2017年にかけて実施された「Japan Retinal Detachment Registry」のデータによれば、両術式が適応となる症例において、強膜内陥術が約30%、硝子体手術が約70%の割合で選択されているそうで、硝子体手術の割合が増えてきています。 麻酔方法に関しては、局所麻酔が一般的に用いられています。例えば、日本大学板橋病院では、網膜硝子体手術の多くを局所麻酔で行っており、手術中に痛みを感じることはほとんどないと報告されています。ただし、患者の全身状態や手術の難易度によっては、全身麻酔が選択される場合もあります。具体的な全身麻酔と局所麻酔の比率に関する全国的な統計データは見当たりませんが、全身麻酔は特定の条件下で選択されることが多いと考えられます。なお、麻酔方法の選択は患者の全身状態や手術の内容によって異なるため、担当医と十分に相談することが重要です。
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