これからの糖尿病黄斑診療を考える
中尾新太郎先生(順天堂大)聴講印象録
糖尿病黄斑症の診療において、網膜は脳に比べて虚血になりやすい特性を持ちます。診断手段はFA(蛍光眼底造影)からOCT(光干渉断層撮影)、さらにはOCT-A(OCTアンギオグラフィー)へと進化しています。また、網膜虚血にはVEGF(血管内皮増殖因子)が関与します。糖尿病による視力低下の主因は黄斑症であり、その病態には以下の2つが挙げられます:
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糖尿病性黄斑浮腫(DME)
- 血管透過性の亢進が網膜内浮腫を引き起こし、OCTで網膜の厚みとして観察されます。
- この浮腫が視機能低下を招き、放置すると長期的な視力低下につながります。
- 治療には抗VEGF薬が用いられ、現在は第2世代の薬剤が登場しています。
- 抵抗性の黄斑浮腫に対しては、38Gの網膜下注入針でシストを破壊する治療法も選択肢となります。
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糖尿病性黄斑虚血(DMI)
- OCT-Aにより血管網を層構造別に解析でき、還流密度や中心窩無血管帯(FAZ)の大きさが評価可能です。
- FAZはOCT-Aで詳細に観察でき、その領域の変化が糖尿病性網膜症の進行と視力低下に関連していることがわかっています。
DMEとDMIの関係性
DMEとDMIの両者は、虚血による神経炎症(Neuroinflammation)を通じて関連している可能性があります。DMIを伴う場合、抗VEGF療法ではDMEを十分に抑制できないことがあります。この病態の背景には、虚血により炎症反応が引き起こされるという仮説が立てられています。
参考文献
視力は糖尿病性網膜症および網膜静脈閉塞における中心窩無血管帯の領域と相関している
Balaratnasingam C, et al. Visual Acuity Is Correlated with the Area of the Foveal Avascular Zone in Diabetic Retinopathy and Retinal Vein Occlusion. Ophthalmology. 2016 Nov;123(11):2352-2367. DOI: 10.1016/j.ophtha.2016.07.008
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目的
FAZの領域が糖尿病性網膜症(DR)および網膜静脈閉塞症(RVO)の視力(VA)と相関するかを検討。 -
方法
DRとRVO患者95眼を対象に、OCTとOCT-Aを用いてFAZ領域、網膜厚、楕円体帯の破壊状況、視力などを解析。 -
結果
FAZの領域はVAと有意に相関し、この関係は年齢による調整後も維持されました。楕円体帯の破壊や網膜内嚢胞の存在も視力に影響を与えることが確認されました。 -
結論
FAZ領域の変化は視力低下と関連しており、網膜血管疾患の治療後の経過観察に重要な指標となる可能性があります。
補足:Neuroinflammation(神経炎症)
神経炎症とは、脳や脊髄などの中枢神経系で起こる炎症反応です。感染、外傷、神経変性疾患、自己免疫疾患などが主な原因です。ミクログリアやアストロサイトが関与し、炎症が慢性的に続くと神経細胞の損傷や死を引き起こす可能性があります。治療には抗炎症薬や免疫調節薬が用いられます。
補足:次の記事はintraretinal fluid(網膜内液)に関する最近の論説ですが、OCTで網膜の仮性嚢胞と網膜内液の区別ができるという話だった様です。
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