WHOが初めて示した「肥満治療薬GLP-1」指針とは
― 肥満は“意志の問題”ではなく、治療すべき慢性疾患へ ―
世界的に肥満は増え続けています。1990年から2022年にかけて、肥満人口は世界で2倍以上に増えました。しかし最近、米国ではこの流れに変化が見られています。成人の肥満率は約40%をピークに、2025年には37%へと低下しました。その背景として注目されているのが、GLP-1受容体作動薬と呼ばれる新しいタイプの肥満治療薬です。
GLP-1薬は、食欲を抑え、満腹感を高める作用をもつ注射薬(最近は内服薬も登場)で、代表例としてセマグルチド(Wegovy)やチルゼパチド(Zepbound)があります。糖尿病治療薬として開発されましたが、体重減少効果が明確であることから、肥満治療にも使われるようになりました。
こうした状況を受け、世界保健機関(WHO)は2026年1月、肥満治療におけるGLP-1薬の使用について、初めて公式な指針を公表しました。これは大きな方針転換です。これまでWHOは「食事と運動」を肥満対策の中心に据えてきましたが、今回初めて、薬物療法を“条件付きで推奨”したのです。
この指針で特に重要なのは、肥満を「慢性で再発しやすい疾患」と明確に位置づけた点です。高血圧や糖尿病と同じように、治療をやめれば再発しやすく、生涯にわたる管理が必要な病気である、と公式に認めました。これにより、「太っているのは本人の自己責任」という考え方から、医療として支えるべき疾患へと認識が変わることが期待されています。
一方で、WHOの勧告は慎重です。GLP-1薬は妊娠中を除く成人に、長期治療として用いてよいとされていますが、あくまで「条件付き」です。その理由は、長期の安全性データがまだ十分ではないためです。副作用としては、吐き気や下痢などの消化器症状が比較的よく知られていますが、まれに急性膵炎や、眼科領域では**非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)**との関連が指摘されています。非常に頻度は低いものの、使用者が世界で何億人規模になれば、無視できない問題となります。
また、WHOはGLP-1薬を「魔法の薬」とは位置づけていません。薬だけに頼るのではなく、食事・運動などの行動変容支援と組み合わせる包括的治療が重要だとしています。現実には、これを十分に行える医療体制が整っていない国や地域も多く、今後の課題とされています。
さらに大きな問題が「公平なアクセス」です。GLP-1薬は高価で、供給量も限られています。WHOは、このままでは2030年時点でも、必要な人の1割未満しか使えない可能性があると警告しています。価格引き下げ、供給体制の強化、医療制度全体の整備が不可欠です。
WHOは最後に、肥満対策を「社会全体の問題」と位置づけています。健康的な環境づくり、リスクの高い人の早期支援、そして肥満をもつ人への生涯ケア。この3本柱で、今後5年間が正念場だとしています。
出典
Kate Schweitzer. What to Know About the WHO’s New GLP-1 Drug Guideline. JAMA Medical News, Published Online January 9, 2026.
doi:10.1001/jama.2025.25208
清澤のコメント(眼科医の立場から)
GLP-1薬は肥満医療を大きく変える可能性がありますが、眼科的には視神経障害との関連が完全に否定されたわけではありません。まれでも重い副作用がある以上、使用中に「片眼の急な視力低下」などがあれば、速やかな受診が重要です。新しい治療ほど、冷静な長期視点が必要だと感じます。



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