AIで変わる糖尿病網膜症検診 ― 連邦認定医療センターでの新たな試み
背景
糖尿病の患者さんには、年1回の糖尿病網膜症検診が推奨されています。糖尿病網膜症は、働き盛り世代の失明原因の上位を占める重要な病気です。アメリカでは約3,840万人が糖尿病を抱え、そのうち約4人に1人が網膜症を有し、約5%が視力を脅かす重症型とされています。特に黒人やヒスパニックの方では重症例の割合が高いことも知られています。
しかし現実には、検診率は地域や人種によって大きくばらつき、11%から70%以上と報告に幅があります。特に**連邦認定医療センター(FQHC)**のように、経済的に厳しい立場の患者さんが多い医療機関では、保険、交通手段、予約の煩雑さなどの理由から眼科受診が遅れがちです。糖尿病網膜症は初期には自覚症状が乏しいため、検診の遅れはそのまま診断の遅れにつながります。
そこで近年注目されているのが、人工知能(AI)による網膜症スクリーニングです。撮影した眼底写真をAIが解析し、その場で判定する仕組みです。ただし、実際の診療の流れにどう組み込み、どれほど効果があるのかは、十分に検証されていませんでした。
目的
今回紹介するDRES-POCAI試験は、
1)AIを用いた院内即時スクリーニングが検診率を高めるか
2)早期発見や専門医紹介の迅速化につながるか
3)患者さんの知識や満足度に良い影響を与えるか
を明らかにすることを目的としています。
方法
本研究はカリフォルニア州サンディエゴ郡の2施設で行われる無作為化比較試験です。対象は22歳以上の糖尿病患者848人。過去11か月以内に眼科診療を受けていない方が対象です。
介入群では、内科などのプライマリケア受診時に眼底写真を撮影し、AIがその場で解析します。結果は電子カルテに即時反映され、リスクに応じて眼科紹介が自動的に提案されます。
一方、対照群は従来どおり、外部の眼科へ紹介される通常診療を受けます。
主な評価項目は「検診完了率」。副次的に、診断段階、専門医受診率、患者さんの理解度や意識の変化なども調べます。
結果
本論文は試験プロトコルの報告であり、最終結果は今後公表予定です。しかし本研究は、AI検診を電子カルテと連動させ、紹介まで自動化する多要素アプローチを採用している点に特徴があります。単なるAI判定ではなく、医療の流れ全体を改善する設計になっていることが重要です。
結論
DRES-POCAI試験は、AIをプライマリケアの現場に組み込むことで、糖尿病網膜症検診の受診率向上と早期治療につながるかを検証する重要な研究です。もし有効性が示されれば、医療アクセスの格差是正に大きく貢献する可能性があります。
AIは医師の代わりになるものではありませんが、「見逃さない仕組み」を作る強力な補助ツールとなり得ます。特に眼科医不足地域や通院困難な患者さんにとっては、大きな意義を持つでしょう。
出典
Diaz EA, Seifert ML, Gruening V, et al.
Diabetic Retinopathy Screening in Federally Qualified Health Centers With Point-of-Care Artificial Intelligence (DRES-POCAI): Trial Protocol.
JAMA Network Open. 2025;8(10):e2538114.
DOI:10.1001/jamanetworkopen.2025.38114
ClinicalTrials.gov Identifier: NCT06721351
眼科医としてのひと言
糖尿病網膜症は「症状が出てからでは遅い」病気です。AIの力を借りながらも、最終的に患者さんの視力を守るのは、早期発見と継続的なフォローです。技術の進歩が、より多くの方の視力保護につながることを期待しています。情報提供:星 進悦先生。



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