オッペンハイマ―は理論物理学者であり、第二次大戦中に米国が原子爆弾を作成したマンハッタン計画で中心的役割を果たした理論物理学者です。原子爆弾の完成はドイツの敗戦には間に合いませんでしたが、ヤルタ会談には間に合うという微妙な時期に3基の原爆を完成させます。終戦を速められたということで終戦直後には米国内でも褒め称えられますが、核兵器の使用や水素爆弾の制作に反対したこと、また共産主義的な考えの人々に親和的な思想を持っていたことなどで、赤狩りの標的にされてその名声は損なわれます。この作品ではアインシュタインも属していたプリンストン研究所の先代の所長がオッペンハイマーの追い落としをたくらんだ張本人として描かれています。出世競争のある集団では、この例のように著しい成果を上げた後輩に対して、先輩や師匠が嫉妬し、その出世を阻もうとする例はしばしばあるようです。映画としては大きな資金をかけて作られており、また大きな売り上げも上げ、またアカデミー賞も多数獲得した作品とのことでした。
なお、このオッペンハイマー博士の失脚は以下のローゼンバーグ事件にも関連しています。ローゼンバーグ事件は、1950年にアメリカで発覚したソビエト連邦によるスパイ事件です。この事件は、ユダヤ系米国人のジュリアス・ローゼンバーグとエセル・グリーングラス・ローゼンバーグ夫妻が、ロスアラモスの原子爆弾製造施設に勤務していたエセルの実弟でソ連のスパイでもあったデイヴィッド・グリーングラスから機密情報を受け取り、それをソ連に提供した容疑で逮捕された事件です。ローゼンバーグ夫妻は死刑判決を受け、1953年に処刑されました。この事件は冷戦下で起きたものであり、死刑執行には反対意見も多かったのですが、後にヴェノナ文書公開によってローゼンバーグ夫妻が実際にスパイ活動を行っていたことが明らかになりました123。
下の動画は、分かり易い解説動画でした。モノクロ(ストロース側)とカラー(オッペンハイマー側)の両画面は、対立する2人の立場を背景としているとか、歴史的背景、科学的背景、事件の時間的前後は、あらかじめ知って映画を見たら更によく映画が理解できるでしょう。
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