清澤のコメント:2025年6月2日付 JAMA 掲載の「血液ベースの結腸直腸がん(CRC)スクリーニング」について分かりやすくまとめたものです。内視鏡検査よりは手軽であるとはいえ、血液検査で「異常」とされた人が、その後に内視鏡検査を受けない限り、本当の意味での予防にはつながらないことも強調されていました。昨年の医学部の同級会で、有名な下部消化管手術の専門医となった同級生が自ら直腸癌の手術を受けたという話をしていたのも思い出しました。
シンプルな「血液検査」で大腸がんは防げるのか?
がんによる死因第2位である結腸直腸がん(CRC)は、早期発見と適切なスクリーニングによって予防可能ながんのひとつです。実際に、45歳から75歳までの人が定期的に検診を受ければ、その多くを防げるとされています。しかし、「恥ずかしい」「面倒」「不快」といった理由から、いまだにスクリーニングの受診率は十分とは言えません。
血液でわかるなら簡単? 期待の新検査
近年、便を使った検査や大腸内視鏡に代わって、「血液ベースのがんスクリーニング」が注目されています。なかでも、血液中のDNAの変化(CpGメチル化)を調べる新しい無細胞DNA検査は、非侵襲的かつ採血だけで済むため、多くの人にとって魅力的です。
最新のPREEMPT CRC研究では、32,731人を対象にこの検査の有効性が検証されました。その結果、
- がんの検出感度は全体で約79%、特に進行したがんでは100%に達することも。
- しかし、初期のがん(ステージI)の感度は57%とやや低く、
- がんになる前のポリープや前がん病変の感度は12〜29%と不十分でした。
これは、がんになる前の段階では血液中に検出可能な成分がまだ出てこないためと考えられています。
血液検査で防げない「がんの芽」
CRCを本当に防ぐためには、「がんの芽」である前がん病変を見つけて除去することが極めて重要です。その点で、便潜血検査(FIT)や大腸内視鏡検査は、
- ポリープの段階での発見率が高く、
- 死亡率を大きく下げることが、これまでの研究で示されています。
実際、大腸内視鏡検査によるがん死亡率の減少の多くは、がんの早期発見というより、ポリープ除去によって未然に防いだ結果とされています。
血液検査はあくまで“補助的”
とはいえ、スクリーニングを一切受けない人が多い現状では、血液検査の「簡単さ」が受診率を高める可能性があります。ある研究では、従来の方法に応じなかった人に無細胞DNA検査を案内したところ、受診率が2倍以上になりました(13% → 30%)。
ただし注意すべきは、
- 血液検査の導入によって本来の便検査や内視鏡から人々を遠ざけてしまうと、
- むしろがんの発症や死亡が増えてしまうという“予防のパラドックス”が起こりうることです。
臨床現場での賢い使い方
したがって、現時点では、
- 基本は大腸内視鏡検査や便潜血検査を第一選択にすべきであり、
- 血液ベースの検査は「どうしても他の検査に応じられない人」への補完的選択肢として活用されるべきです。
また、血液検査で「異常」とされた人が、その後に内視鏡検査を受けない限り、本当の意味での予防にはつながらないことも強調されています。
まとめ:
血液検査の技術は目覚ましい進歩を見せていますが、「簡単そうに見える選択肢」が本当に効果的とは限りません。がんの予防には、多少の不便を乗り越えてでも、科学的に実証された方法を選ぶことが大切です。大腸内視鏡や便潜血検査をしっかり活用し、必要なら血液検査を“最後の手段”として位置付けましょう。
追記:
「血液中のDNAの変化(CpGメチル化)を調べる無細胞DNA検査」とは:
がん細胞から血液中に放出される無細胞DNA(cell-free DNA)には、正常な細胞とは異なるDNAの化学的な変化が見られます。その一つがCpGメチル化です。
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CpGメチル化とは?
DNAの中の「CpG部位」(シトシンとグアニンが並んだ配列)に、**メチル基(CH₃)**が付くこと。がん細胞では、このメチル化のパターンが異常になります。 -
この検査の仕組み
採血によって得られた血液から無細胞DNAを取り出し、CpGメチル化の異常パターンを検出することで、がんの可能性を評価します。 -
特徴
✔ 採血だけで検査できる(内視鏡不要)
✔ 体に負担が少ない非侵襲的検査
✔ 複数のがんに対応できる可能性あり
このように、CpGメチル化を使った無細胞DNA検査は、新しい「がんの早期スクリーニング方法」として注目されています。
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