シャインマスカットと目の健康 ― 今朝の900円の買い物から広がる話題
今朝、自由が丘駅構内のスーパーでいつもの弁当と一緒にシャインマスカットを購入しました。価格は900円。かつては「高級果物」として数千円で並んでいた印象のある品種が、今年は比較的手ごろな値段で店頭に出回っていると感じました。天候がよく作柄が安定したことが背景にあるようです。市場の相場をみると、1房数千円が一般的ですが、近年は出荷量の増加や小粒品の増加によって値がこなれてきています。ニュースによれば、卸売価格も昨年よりやや安く推移しており、今回の900円という価格はむしろお買い得だったのかもしれません。
シャインマスカットは、日本で育成された比較的新しい品種です。1980年代に広島の農研機構で交配が始まり、2006年に品種登録されました。親には「スチューベン」や「マスカット・オブ・アレキサンドリア」など香り豊かなブドウが含まれ、皮ごと食べられ、糖度が高く酸味が少ないという特長を受け継ぎました。パリッとした歯ごたえと爽やかな甘みは、子どもから大人まで幅広い世代に愛されています。近年は長野、山梨、山形などを中心に全国的に栽培が拡大し、食卓に並ぶ機会も増えました。
さて、眼科医の立場から「ぶどう」と聞くと、すぐに「ぶどう膜」を思い浮かべます。虹彩・毛様体・脈絡膜から成る目の中の血管に富んだ層で、網膜に栄養や酸素を届けるとともに、光で熱をもつ網膜を冷やす“クーリング”の役割も担っています。ここに炎症が起きればぶどう膜炎となり、視力に大きな影響を及ぼします。強度近視では眼球後部が外に伸び出し、近視性後部ぶどう腫と呼ばれる状態が生じることもあります。果物のぶどうと医学用語のぶどう膜は一見無関係ですが、語感のつながりから話題のきっかけにはぴったりです。
食べ物としてのぶどうには、目の健康に関連するいくつかの成分が含まれています。皮や種に多いアントシアニンやレスベラトロールなどのポリフェノールは抗酸化作用を持ち、光によって生じる活性酸素から細胞を守るとされています。特に網膜では、光を感じるロドプシンの再生を助ける可能性が示唆され、目の疲れや暗順応に関わる研究もあります。さらに最近では、ブドウの摂取が網膜の黄斑色素量を増加させる可能性を示す研究も報告されています。黄斑色素はブルーライトなどから網膜を保護するとされ、将来の眼疾患予防に関わるかもしれません。
また、ぶどうの糖分は即効性のあるエネルギー源であり、長時間のパソコン作業や受験勉強の合間に食べると、素早い疲労回復に役立つことがあります。ビタミンB群も含まれており、神経や筋肉の代謝を支える働きが期待できます。ただし食べ過ぎれば糖質過多になり、肥満や生活習慣病リスクにつながる点には注意が必要です。目によいからといって食べれば食べるほど効果が出るわけではなく、あくまでバランスのよい食生活の一部として取り入れるのが賢明です。
今回の900円のシャインマスカットは、日々の昼食にちょっとした彩りを添えてくれました。高級なイメージのある果物が手に届く価格で入手できるのは嬉しいことです。そしてその背景には品種改良の努力や農家の栽培技術があることを忘れてはいけません。ぶどうを食べるとき、眼科医としては「ぶどう膜」という言葉も思い出し、目の健康との不思議な縁を感じます。甘い果実を楽しみながら、同時に網膜や黄斑を守る日常のケアも心がけたいものです。
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