高円寺の路傍に咲く花と目の健康
朝の高円寺の住宅街を歩いていると、ふと足元に小さなピンク色の花の群れが目に入りました。薄曇りの朝、その鮮やかな色はまるで光を集めているように見えます。でも鉢一杯の花は開いてはいません。調べてみると、この花は「オキザリス(Oxalis)」というカタバミの仲間でした。
オキザリスは南アフリカ原産で、ハート形の三枚葉と5枚の花弁をもつ愛らしい植物です。日差しが当たると花を開き、夕方や曇りの日には閉じるという“睡眠運動”を行うのが特徴で、まるで瞼を開け閉めする人の目のようにも感じられます。自由気ままに路傍で咲いていても、光に敏感に反応するその姿に、自然界の「光を感じる生命のリズム」を見る思いがします。
眼科医として日々感じるのは、人間の目もまたこの花と同じく、光に合わせて繊細に働いているということです。私たちの瞳孔は明るさに応じて大きさを変え、網膜は明順応・暗順応を通して周囲の光環境に適応しています。ところが、最近は長時間のスマホやパソコン使用により、昼夜の光環境の差が少なくなり、視覚のリズムが乱れている方が増えています。屋外で自然光に触れることは、こうしたリズムを整える上でとても重要です。
オキザリスにはシュウ酸(oxalic acid)が多く含まれています。この成分名の「オキシ(酸)」と「アリス(カタバミ)」が合わさって学名がつけられたといわれます。シュウ酸はカルシウムと結びつきやすい物質で、体内では結石の原因にもなりうる一方、光に反応して代謝を調整する生理的役割も知られています。植物が光を感じ取る仕組みの中に、私たちの視覚と通じる“生きた化学反応”があることは興味深い点です。
小さな花を見つめて立ち止まる時間は、目にも心にもやさしい休息です。屋外で自然光を浴び、季節の色を感じることが、実は眼の健康維持の第一歩でもあります。高円寺の路傍に咲くこのオキザリスの花は、そんな大切なことを静かに教えてくれているように思います。



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