近所を歩いていたら、兎の小さなフィギャーが添えられた鉢植えに、赤い小さな実をいくつも付けた植物が育っているのを見かけました。思わず足を止めて写真を撮ったのですが、その姿は、私が子どもの頃、故郷の庭の日陰に自然に生えていた「蛇イチゴ」を思い出させるものでした。
結論から言うと、この植物は蛇イチゴ(ヘビイチゴ)である可能性が高く、特別な園芸改良品種というよりも、野生種あるいはそれに近い性質をもつ植物と考えられます。蛇イチゴはバラ科の多年草で、葉は三つに分かれ、春から初夏にかけて黄色い花を咲かせ、やがて赤い実を付けます。最大の特徴は、実がイチゴのように見えても甘くなく、しかも上向きに実る点です。私たちが食べるイチゴは白い花を咲かせ、実は下向きに垂れ下がりますので、ここが見分けるポイントになります。
蛇イチゴは毒があるわけではありませんが、味がほとんどなく、食用には向きません。そのため昔から「蛇が食べるから蛇イチゴ」「人が食べるとよくない」という言い伝えが生まれました。ただ、実際には危険な植物ではなく、半日陰でもよく育つため、気づかないうちに鉢植えや庭に入り込むこともあります。今回の鉢も、意図して植えた園芸品種というより、自然に増えたものを、そのまま楽しんで育てているように見えました。兎の模型が添えられているのも、可愛らしい野趣を生かした園芸的な演出なのでしょう。
この「蛇イチゴ」は、眼科医の立場から見ると、少し象徴的な存在でもあります。見た目は真っ赤でおいしそうなのに、実際には甘くない。つまり、見た目の印象と中身の本質が一致しない植物です。眼科診療でも、「よく見えている気がする」「赤くはっきり見えるから大丈夫そうだ」と感じていても、実際には黄斑や視神経に異常が潜んでいることがあります。見た目や自覚症状だけでは判断できない――蛇イチゴは、そんな目の病気の本質を思い起こさせてくれます。
日常の風景の中にある小さな植物でも、よく観察すると自然の仕組みや、医療にも通じる示唆を与えてくれます。兎の置物とともに静かに育つ蛇イチゴの鉢は、そんなことを改めて感じさせてくれる、印象的な一鉢でした。



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