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[No.648] 同志少女よ敵を撃て:逢坂冬馬:を読みました。

第二次大戦中にロシアのモスクワ近郊の寒村イワノフスカヤ村で敗走するロシア軍に襲われて母と村人全員を焼き殺されたセラフィマは、拾われた狙撃兵隊長に教育され、その後のドイツ敗戦まで狙撃兵として戦うことになります。初めの部分から、戦争の状況が克明に記載されます。戦場における女性を扱った作品ですが、最後のエピローグでは、狙撃兵の師とともに生まれ故郷の村に帰り、村の再建に尽くしたが、一方魔女として気味悪がられ恐れられたというくだりを読んで生き延びた主人公の落ち着き先を聞きホッとしました。

 物語は速いテンポで進みますが、現在ウクライナ侵攻で地名が出てくるウクライナのキエフ、ハリコフ、セバストポリ(クリミア半島)、それにロシアのスターリングラードやプロイセンのケーニヒスブルグ(現在はロシアの飛地領でカリーニングラード)などの気になる地名が頻繁に出てきます。ウクライナの地が、第二次大戦中でもまた現在でも東西抗争の地であったという事がいまさらながら理解できます。

数盤でのドイツ人の狙撃兵を撃ち倒す場面は壮観ですが、物語は終盤にきて少し話を急ぎすぎた、あるいは伏線の種明かしを重ねすぎた感を受けました。

 眼に残った部分としては、416ページで「ふと思い出した。今のお前は、あの時のアヤに似ている。アヤは、ーーおもいだす。あの時、妄執に取りつかれていた。自由を渇望したあの少女は、敵を撃つことに固執し、百も承知の鉄則を和売れた。一か所にとどまるな。自分の弾が最後だと思うな。そして、、賢いのは自分だけだと思うな。その言葉を思い出した瞬間、セラフィマは、自分の置かれた状況の不自然さに思いいたった。ーー」という部分です。

 幾つかの幸運が重なると、自分が無敵であるかのように誤解しがちです。戦場でなくても、常にこのような慎重さとか、自分を客観的に見る謙虚さとかと言った心の保ち様が重大な危機から自分を守ることができるという事はありそうです。

追記:ドイツ軍がスターリングラードを包囲し、陥落直前になった時に、赤軍は歌―リングラードへのドイツの補給線を断つ作戦に出て、ドイツ側のルーマニア部隊を破って、ドイツ軍を逆に孤立させ、最終的にドイツ軍を降伏に追い込みました。この時の陣形がこの本に出てくるのですが、今のウクライナ東部地域の陣形にとても似ています。ウクライナ軍が孤立して殲滅されることが危惧されている所以です。

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