ラクーンアイズ(アライグマの目)、両目の皮下出血:
このアライグマの目のような出血は、前頭蓋窩(頭蓋底)に線状の骨折線がある頭蓋骨の骨折の症状とされています。(図の出典:http://connection.lww.com/Products/timbyessentials/Ch41.asp)その様な骨折の多くは線状の骨折ですから手術をして整復する必要はないのですが、骨折があれば、頭蓋骨に骨折があるというだけでも大変なことです。
また、眼窩内はともかく鼻腔や副鼻腔などのように細菌が常在する部分と脳脊髄液がこの骨折部分を通して接触しているわけですから脳の回りへの感染症(感染性髄膜炎)にも気を付けなくてはいけません。
また脳脊髄液が鼻腔に漏れ出し続ける髄液漏を形成している可能性もあります。鼻水(実は漏れ出した脳脊髄液)がないかどうかを患者さんに聞いてみる必要があります。学生時代、この鼻水の中の糖の濃度をテステープで調べると鼻水か脳脊髄液か容易に区別できると聞きました。
このようなわけで、ラクーンアイズというのは単純ですが前頭部の頭蓋低骨折を示す症状とされているのです。
これと似たものに耳の後ろの骨のふくらみ辺りの皮膚に出る皮下出血があり、これはバットルサインBattle’s signと呼ばれます。これは側頭骨の錐体と呼ばれる部分で、内耳を含んでいる部分に骨折があることを示すサインです。どちらも頭蓋底(頭蓋骨の底の部分)の骨折の兆候ですから重傷の頭部外傷であるということになります。
ラクーンアイズは意識水準の高い患者にも、またこの図のように低い患者でも見られるそうです(http://www.itim.nsw.gov.au/go/objectid/2A022200-1321-1C29-70C7210E1056C73E)
暴漢に殴られたり、駅で階段から落ちて顔をぶつけたりしますと、皮膚に擦り傷を伴ったりしながら片方の瞼がはれ上がり紫に染まる皮下出血のこぶを起こすことがあります。
ここでお話ししたアライグマの目というのは、これとは別のものですので間違わないように。このような眼窩打撲ではむしろ視神経管骨折などに伴う視神経損傷や眼球の動きの制限の見られる眼窩吹き抜け骨折(ここに詳報)、それに眼球自身の損傷を考えて治療を進めます。
さらに乳児でこのような眼窩部の出血が見られ、眼球もやや前に出ているという場合には後腹膜にできる神経芽細胞腫が眼窩に転移している場合があり(http://www.indianpediatrics.net/sep2005/sep-949.HTM)、私も一人拝見したことがあります。
この転移腫瘍はとても進行が早くまた出血もしやすいようですから、転んでコタツにぶつけたのだろうといった親の言葉を信じたり、あるいは親にたたかれたのではないかなどと疑うととんでもない間違いです。
町の医院ではそのような重症の患者さんを見ることはまずありませんが、救急機能や、後方支援機能を持った病院の外来では、ストレッチャーや車椅子で外来を新患で受診する外傷の患者さんがしばしばいます。そのような患者さんでこのような変化を見たら注意が必要です。
今日は眼科でも出会うことの有る脳底部の骨折の兆候であるアライグマの目を説明してみました。
前頭蓋窩骨折の症状は、髄液鼻漏と目の周りのあざ、つまり「眼窩周囲血腫」です。 意識喪失とグラスゴー昏睡スコアは、関連する頭蓋内の病的状態によって異なる場合があります。
2021.12.5
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