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[No.197] 急性硬膜外血腫のお話、三河雑兵心得 足軽仁義から

清澤のコメント:井原忠政著、三河雑兵心得 足軽仁義(二葉文庫)を読んでいます。2020年文庫書下ろし時代小説ベストテン第一位。主人公の茂兵衛は父を亡くし、母と弟それに3人の妹と暮らす粗暴な若者。弟をいじめた村の3人を相手に喧嘩をし、その一人を殺してしまったことから村にいられなくなり、弟を連れて村を出ます。

「倉蔵のような根性は、茂兵衛の美意識からは到底許しがたいものだった畦を追いかけ、瞬時に追いつき、ひょこひょこと左右に揺れる頭を慎重に狙って薪を振り下ろした。、、脳天にきつい一撃を受けた倉蔵が崩れ落ちたのを見て、背後で弥助と小吉が、田んぼの中を這うようにして逃げ始めた。」、、「けんかの後、兄弟はちゃんと歩いて家に帰ったそうな。倉蔵は『茂兵衛に殴られた頭が痛い』と訴えてはいたが、昨晩は食事もとり、普通に床に就いたらしい。ところが今朝、倉蔵は寝床の中で冷たくなっていたのだ。」

この記述、「意識清明期」があることなどまさに急性硬膜外出血ですね。頭蓋骨と硬膜の間に溜まった血腫のことを指します。 骨折した頭蓋骨からの出血や、硬膜と頭蓋骨の間を走っている“中硬膜動脈”という血管が切れることが原因になることが多いそう。 つまり頭蓋骨骨折があれば起こす可能性が高いと言えます。慶応大学脳外科の記述を参考に下で復習してみましょう。治療法は大きく開頭して血種除去の上出血した血管を止血すること。老人に見られやすい慢性硬膜下出血で穿頭しドレナージをするのとは違うようでした。

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急性硬膜外血腫

概要:急性硬膜外血種とは、高所、階段からの転倒や、交通外傷などによって、強く頭部を打撲することで、脳を覆う硬膜という膜と頭蓋骨との隙間に血液が貯留した状態を指します。重症度は出血部位と出血速度に相関し、最重症のものは一刻を争う状態で、緊急手術の適応にもなります。

原因・症状:多くの場合、骨折を伴う外傷で、(中硬膜動脈などの)脳表面の血管が損傷することで起こる急性の頭蓋内出血です。社会的活動性の高い10-20代や転倒の多くなる高齢者によく見られますが、幼児(2歳以上)などにも見られます。出血量が少ない場合には自覚症状はありませんが、一定以上の血液量が貯留し、貯留した血液が正常な脳組織を圧排してくることで、頭蓋内圧亢進症状といわれる頭痛、嘔気や半身の脱力、意識障害などを認め、命にかかわる状態となり得ます

急性硬膜外血腫の特長として、「意識清明期」があることが挙げられます。意識清明期とは、上記の理由による、頭蓋内に出血が十分に貯留するまでの自覚症状に乏しい時間を指します。意識清明期の時間はまちまちですが、受傷後3~6時間、時には24時間近く経って徐々に症状が出現することがあるので、注意が必要です。最重症の急性硬膜外血腫であれば、意識清明期を認めることなく意識障害を呈することがあり、脳挫傷を来した場合、損傷部位に応じた後遺症を認める可能性があります。

検査・診断:原則的には頭部CTで診断します。ただし、小児(15歳以下を目安)であれば、CTに伴う放射線被爆を鑑みて、自覚症状に乏しければCTを撮影せずに慎重に経過を見ることが多くあります。急性硬膜外出血の診断となった場合、出血量、出血増大速度を確認するため、1日に複数回頭部CTを行うこともあります。原則的に入院となります。

治療法(手術):軽症で、出血は認めるものの自覚症状がないまま経過した場合には、経過観察入院(1泊2日など)の後、外来で経過を診ます。

重症で、頭蓋内圧亢進症状(頭痛、嘔気など)や意識障害を認めている場合、出血量が増量し続けている場合などには緊急手術を行います。手術は、全身麻酔で、大きく皮膚、骨をあけ、貯留した血腫を除去し、原因となった血管を止血します。併せて、骨折した頭蓋骨の整復や、脳損傷の有無の確認なども行います。

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