清澤のコメント;視交叉部への圧迫病変と緑内障は似たような視野変化を示すことがあり、それは視野が耳側半盲を示すかどうかで見極められる。視野欠損は網膜のひはく化に現れるから、黄斑の鼻側の萎縮(ひはく化)が耳側の萎縮よりも強ければ、耳側視野欠損に対応するはずである。川崎医大の三木らは、(⇒リンク)このような半盲視野に対応するOCT変化を以前から提唱していたと思うが、今回ロンドンのムアフィールド病院から、視交叉部病変と緑内障でそれを定量的に分析して鑑別能を示した研究が発表された。後頭葉病変よりもシナプスを介さないだけ、視交叉病変では網膜萎縮は強いはずであり、理解しやすい議論になっている。
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AAOのニュースレター記事の翻訳
黄斑の鼻側頭比により視交叉圧迫と緑内障を区別できる
黄斑鼻側頭比 (mNTR) は、黄斑神経節細胞と内網状層 (mGCIPL) の鼻側と側頭側の厚さを比較します。 研究者らは、mNTRが視交叉圧迫のある眼を原発開放隅角緑内障(POAG)の眼と区別できるかどうかを判断するために、ロンドンのムアフィールズ眼科病院で111人の患者からのOCTデータを遡及的に分析した。 視交叉圧迫のある眼は、健康な眼よりもmNTRが有意に低かった(鼻側黄斑萎縮が大きいことを示す)のに対し、POAGのある眼はmNTRが高かった(側頭萎縮が大きい)。 さらに、グループ間で全体的な mGCIPL の厚さには有意差がなかったにもかかわらず、mNTR は視交叉圧迫と POAG を区別する高い診断力を示しました。 英国眼科雑誌、2024 年刊行中
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ーーー現論文要旨の翻訳ーーー
題名:光干渉断層計測法による黄斑の鼻側・側頭側比率:視交叉圧迫と緑内障の鑑別における新しい指標
著者:Iris Kleerekooper, ほか
アブストラクト:
背景/目的:視野欠損のパターンの分析は、視路病変の鑑別診断に役立つ臨床的に有用な手法である。本研究では、光干渉断層計測法(OCT)による黄斑の萎縮パターンの新しい指標である黄斑の鼻側・側頭側比率(mNTR)が、視交叉圧迫と緑内障を鑑別する能力を検討した。
方法:視交叉圧迫の術前患者と原発開放隅角緑内障(POAG)患者の後ろ向きの症例シリーズと、健常対照者を対象とした。Heidelberg社製のOCT画像から、黄斑の神経節細胞層と内側網状層(mGCIPL)の厚さを測定した。鼻側半黄斑の厚さと側頭側半黄斑の厚さを比較して、mNTRを算出した。群間の差と診断的精度を多変量線形回帰分析と受信者操作特性曲線(ROC)の下の面積(AUC)を用いて検討した。
結果:視交叉圧迫患者31例、POAG患者30例、健常対照者50例を対象とした。視交叉圧迫の原因は下垂体巨大腺腫(24例)、上鞍部髄膜腫(2例)、特定されなかった上鞍部腫瘍(2例)、視交叉膠芽腫(2例)、嚢胞性咽頭腺腫(1例)であった。健常対照者と比較して、mNTRはPOAG患者では有意に高く(β=0.07, 95% CI 0.03 to 0.11, p=0.001)、視交叉圧迫患者では有意に低かった(β=−0.12, 95% CI −0.16 to –0.09, p<0.001)。これらの病変における全体的なmGCIPLの厚さは有意な差がなかった(p=0.36)。mNTRはPOAGと視交叉圧迫を鑑別する際に、AUCが95.3%(95% CI 90% to 100%)と高い識別能を示した。健常対照者との比較では、AUCは視交叉圧迫で89.0%(95% CI 80% to 98%)、POAGで79.0%(95% CI 68% to 90%)であった。
**結論:mNTRは、鼻側・側頭側の黄斑萎縮パターンを定量化する新しいOCT指標であり、視交叉圧迫とPOAGを高い識別能で鑑別することができる。この比率は、既報のセクター別萎縮指標に加えて有用性がある可能性がある。OCT装置の出力にmNTRを組み込むことで、視交叉圧迫の早期診断が促進されるかもしれない。
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