糖尿病網膜症・加齢黄斑変性・網膜疾患

[No.3077] 硝子体注射液ファリシマブ(バビースモ®)の作用機序

本日の第17回新副都心黄斑疾患勉強会でファリシマブ(バビースモ,VABYSMO)に関する講演を聞いてきました。帰宅後「バビースモ」の作用機序というパンフレットを眺めています。その概要は次のとおりです。私は、自分で硝子体注射を行う事は行っておりませんがこの基礎知識は知っておくべきものと思いました。

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1,正常な血管内皮細胞:血管安定化因子Ang-1の作用

正常な血管内皮細胞は、血管の安定性を保つ重要な役割を果たしています。この安定性は、主に血管安定化因子Ang-1(アンジオポエチン1)によって調節されています。Ang-1は血管内皮細胞表面に存在するTie2受容体に結合し、その活性化を通じて以下のような作用をもたらします。

  • 血管の構造的安定化:内皮細胞間の結合を強化し、血管が破綻しないよう保護します。
  • 血管透過性の抑制:内皮バリアの維持を助け、液体やタンパク質が血管外に漏れ出るのを防ぎます。
  • 炎症の抑制:炎症性サイトカインの発現を抑え、慢性的な血管障害を予防します。

これらの作用により、Ang-1は血管の正常な機能と網膜組織の健康を維持する上で重要な因子として働いています。

2,nAMDDMERVOの病態:血管安定化因子Ang-2VEGF-Aの協調作用

nAMD(加齢黄斑変性症)、DME(糖尿病黄斑浮腫)、RVO(網膜静脈閉塞症)では、Ang-2(アンジオポエチン2)とVEGF-A(血管内皮増殖因子-A)が密接に協調して病態を進行させます。

Ang-2の役割

Ang-2Ang-1と競合してTie2受容体に結合しますが、その結果、Tie2の活性化が抑制され、以下のような血管の不安定化を引き起こします。

  • 血管の脆弱化:内皮細胞間の結合が弱まり、血管が不安定になります。
  • 血管透過性の亢進:血漿成分が網膜に漏出し、浮腫を引き起こします。
  • 炎症の促進:炎症細胞が侵入し、組織の損傷を悪化させます。

VEGF-Aの役割

VEGF-Aは新生血管形成を促進する因子であり、網膜疾患においては以下の病態を引き起こします。

  • 異常な新生血管の形成:脆弱で漏出性の高い新生血管が発生します。
  • 浮腫と炎症:新生血管からの漏出や炎症が黄斑部の機能を損ない、視力低下をもたらします。

このようにAng-2VEGF-Aが相互に作用し、網膜疾患における病態を進行させる原因となっています。

3,バビースモ(ファリシマブ)の作用機序

バビースモ(faricimab)は、中外製薬が販売しているヒト化バイスペシフィックIgG1抗体で、VEGF-AAng-2の両方を同時に阻害する画期的な薬剤です。この二重作用により、以下の3つの主要な病態を同時に抑制します。

  1. 炎症の抑制
    • Ang-2VEGF-Aを同時に阻害することで、炎症性細胞の侵入を抑え、炎症性サイトカインの発現を抑制します。
  2. 血管透過性の抑制
    • Tie2受容体の活性化を促進し、内皮細胞間の結合を強化して血管漏出を抑えます。
    • 網膜浮腫を軽減し、視機能の維持に寄与します。
  3. 新生血管形成の抑制
    • VEGF-Aの作用を直接阻害することで、異常な新生血管の形成を防ぎます。

これにより、バビースモは炎症、血管漏出、新生血管という3つの主要な病態に多面的に作用し、従来の治療薬よりも高い効果が期待されています。

バビースモの承認された効能と効果

バビースモは以下の疾患に対して承認されています。

  1. nAMD(中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性症)
    • 網膜の新生血管や炎症、浮腫を抑制することで、視力低下の進行を防ぎます。
  2. DME(糖尿病黄斑浮腫)
    • 血糖コントロールが難しい患者においても、網膜浮腫を軽減し、視力改善を図ります。
  3. RVO(網膜静脈閉塞症)
    • 網膜の血管閉塞に伴う浮腫や血管漏出を抑え、視力機能を保ちます。

これらの疾患において、バビースモはVEGF-A阻害薬としての作用に加え、Ang-2阻害による血管安定化作用を併せ持つ点で、従来の薬剤にないユニークな治療効果を発揮します。また、治療間隔を延長できる可能性があり、患者の負担軽減にも寄与します。

まとめ

バビースモは、VEGF-AとAng-2という2つの異なるターゲットを同時に抑制することで、炎症、透過性亢進、新生血管形成の3つの病態を多面的に抑えます。その結果、nAMD、DME、RVOといった視力に重大な影響を及ぼす疾患に対して高い治療効果が期待されます。また、治療間隔の延長により、患者と医療従事者双方の負担軽減にもつながる画期的な薬剤として注目されています。

 

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