小児の眼科疾患

[No.3375] 目(虹彩)の色を決定する要因と遺伝学

あなたの目は何色ですか?目の色と色覚の遺伝学を教える。エドリッジ・グリーン・レクチャー、RCOphth年次総会、グラスゴー、2019年5月 デビッド・A・マッキー

(図はヨーロッパでの青い虹彩色の割合を示す地図 バルト海周辺に多い)

Eye volume36,pages704–715 (2022)

◎ 目の色と色の知覚に関する遺伝学

1. 目の色の遺伝とその複雑性

目の色はメンデルの遺伝学の優れた例としてよく用いられます。一般に、茶色が優性で青が劣性とされていますが、緑やヘーゼルなどの中間的な色やアルビノのような例もあり、単純なメンデル遺伝では説明しきれません。目の色は、主要な遺伝子(OCA2など)と多くの補助的な遺伝子の相互作用によって決まる複雑な形質です。

2. 遺伝と社会文化の関係

目の色に対する関心は、大衆文化や歴史の中にも見られます。例えば、「ゲーム・オブ・スローンズ」の登場人物の目の色が物語の展開と関係しているように、目の色はしばしば神秘的な要素として描かれます。さらに、目の色の分類や呼称は、言語や文化によって異なり、色の知覚自体も環境や文化の影響を受けます。

3. 色覚と生理学的メカニズム

色の知覚は、目に入る光の波長に基づいています。色の分類にはヤング・ヘルムホルツの三色説があり、赤、青、緑の光を識別する3種類の錐体細胞によって視覚が構成されます。目の色はメラニンの量や虹彩の構造によって決まり、青い目はメラニンが少なく、光の散乱によって青く見える構造色の一例です。

4. 目の色の遺伝的要因とゲノム研究

目の色は主にOCA2遺伝子によって決定されるとされますが、多くの他の遺伝子が影響を及ぼします。近年のゲノムワイド関連研究(GWAS)では、目の色に関連する50以上の遺伝子座が特定されています。例えば、HERC2遺伝子の変異がOCA2遺伝子の発現を制御し、青い目の発現に関与しています。

5. 目の色と疾患の関係

目の色は眼疾患のリスク要因ともなり得ます。例えば、加齢性黄斑変性症や緑内障の発症リスクは、特定の目の色(例えば、青い目)で高くなることが報告されています。また、虹彩の色が病気によって変化することもあり、例えばホーナー症候群やフックス異色性虹彩炎では、片眼の色が変わることがあります。

6. 遺伝学と眼科医療の未来

遺伝学は眼科診療においてますます重要になっています。眼科医は、患者の家族歴を確認し、遺伝的リスクを評価する必要があります。将来的には、特定の眼疾患のリスクが高い患者が遺伝子検査の結果を持参して眼科を受診することが一般的になるでしょう。遺伝学の知識は、眼疾患の早期発見や予防に役立つ重要なツールとなるはずです。

7. 色覚異常と遺伝

色覚異常(通称「色盲」)は、主にX連鎖劣性遺伝によって伝わります。赤緑色覚異常は男性の約8%が罹患しており、女性は通常保因者となります。モーガンのショウジョウバエの研究により、X染色体上に位置する遺伝子が関与することが明らかになりました。

8. ソーシャルメディアと色の知覚

「#Theドレス」として知られる青と黒(または白と金)のドレスに関する論争(これは論文このに本文に詳しく書かれています)は、色の知覚の個人差を示す例として有名です。この現象は、光源の認識の違いや脳の色恒常性メカニズムによって説明されます。研究によれば、年齢や育った環境もドレスの色の見え方に影響を与えていることが分かっています。

まとめ

目の色と色の知覚は、単純なメンデル遺伝では説明できない複雑な遺伝的形質です。また、遺伝学の知識は、眼科疾患の診断・治療に不可欠であり、今後の医療において重要な役割を果たすでしょう。眼科医は、ゲノム解析や人工知能を活用し、個々の患者の遺伝的背景を考慮した診療を行うことが求められます。

もう少し一般的な記事もありますので、その「目の色を決定する要因と遺伝学」も纏めてみます。

目の色は、主にメラニンという色素によって決まります。メラニンは虹彩のメラノサイトによって生成され、その量と分布が目の色の決定要因となります。メラニンが多いと目は茶色や黒になり、少ないと青や緑、灰色になります。メラニンには、暗色のユーメラニンと、明るい色のフェオメラニンの2種類があり、これらの組み合わせが目の色のバリエーションを生み出します。

青い目は、メラニンが非常に少ないために光が散乱するティンダル効果によって見えます。虹彩の間質内のコラーゲン繊維が光を散乱し、短い波長の青色が強調されることで青く見えるのです。このため、青い目には実際には青い色素は含まれていません。

目の色の遺伝は単純ではなく、複数の遺伝子が関与します。かつては茶色が優性で青が劣性とされていましたが、現在では染色体15番と19番にあるOCA2やHERC2といった遺伝子が影響を与えることがわかっています。OCA2遺伝子はメラニン産生を調整するPタンパク質を作り、HERC2遺伝子はOCA2の発現を調節する役割を果たします。HERC2の特定の変異によりOCA2の働きが抑えられると、目の色は明るくなります。さらに、TYRやSLC24A4、TYRP1などの遺伝子も影響を及ぼし、ヘーゼルやグレーといった多様な色を生み出します。

目の色の種類と特徴

茶色の目: 最も一般的で、メラニンが多いため暗い色合いになります。紫外線防御が強く、アフリカやアジアなどで広く見られます。

青い目: メラニンが少なく、光散乱によって青く見えます。北ヨーロッパに多く、HERC2の特定の変異が関係しています。

緑の目: ユーメラニンとフェオメラニンの混合によって生まれる珍しい色です。フェオメラニンの黄色と青の散乱光が合わさることで緑色になります。

ヘーゼルの目: 虹彩内のメラニン分布が不均一なため、緑、茶、金の色合いが混ざったように見えます。照明条件によって色が変わることがあります。

灰色の目: メラニンが非常に少なく、虹彩のコラーゲン繊維が光を独特に散乱することで、青とは異なる淡い灰色に見えます。

目の色の変化と影響

生まれたばかりの赤ちゃんは、特にヨーロッパ系ではメラニンが少ないため青や灰色の目で生まれ、成長とともにメラニンが増え、最終的な目の色が決まります。病気や薬の影響で目の色が変化することもあり、緑内障の治療薬が虹彩の色素沈着を増やし、目の色を濃くすることがあります。

虹彩異色症は、両目が異なる色を持つ状態で、遺伝的要因や病気、外傷によって起こることがあります。完全な虹彩異色症(左右で異なる色)、部分的虹彩異色症(虹彩の一部が異なる色)、中央虹彩異色症(虹彩の内側と外側で異なる色)などのパターンがあります。

目の色と進化的意義

進化的に見ると、紫外線が多い地域ではメラニンが多い茶色の目が一般的であり、紫外線の少ない地域では明るい色の目が生じやすくなります。一部の研究では、明るい目の色が性淘汰によって好まれ、広がった可能性も指摘されています。

健康面では、青や緑の目の人は光に対する感受性が高く、紫外線ダメージを受けやすい傾向があります。一方、茶色の目の人は白内障のリスクがやや高い可能性があります。

目の色は、遺伝的多様性と生物学の複雑な相互作用によって決定され、単なる外見上の違いではなく、進化や環境適応の歴史を映し出しています。

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