神経眼科

[No.3703] 「鼻の呼吸にも“指紋”がある?――人それぞれの呼吸パターンが脳と心を映し出す」;論文紹介

「鼻の呼吸にも指紋がある?――人それぞれの呼吸パターンが脳と心を映し出す」

私たちは日々、無意識のうちに呼吸をしています。特に鼻での呼吸は、眠っている間も含めて一日中続く生命活動ですが、その「鼻呼吸」にも実は「指紋」のように人それぞれ固有のパターンがあるという驚きの研究結果が発表されました。

イスラエルのワイツマン科学研究所の研究チームは、鼻の呼吸パターンを24時間連続で高精度に記録できる小型のウェアラブル装置を開発し、約100人の健康な参加者に装着してもらいました。そして、左右の鼻孔を通る空気の流れ方を個別に解析した結果、何と約97%の精度で「その人が誰か」を特定できたのです。これは指紋や声紋と同じように、鼻呼吸のリズムや強さが一人ひとり異なる「呼吸の指紋」になっていることを意味します。

さらに興味深いのは、この呼吸のパターンが単なる身体的特徴ではなく、脳の働きや心の状態、体調と深く関係しているという点です。呼吸は、脳幹にある「呼吸ペースメーカー」とも呼ばれる神経ネットワークによってコントロールされています。このネットワークは、私たちの行動や感情、自律神経の状態に応じて呼吸を調整しているため、呼吸のパターンはその人の脳活動の鏡ともいえるのです。

研究では、呼吸パターンが以下のような情報を反映していることが示されました:

  • ボディマス指数(BMI:体格の情報も呼吸の仕方に影響する
  • 覚醒レベル:眠気があるときや集中しているときの違い
  • 不安や抑うつの傾向:精神状態が微妙に呼吸に表れる
  • 認知特性や行動傾向:集中力や性格的な傾向とも関連がある可能性

つまり、鼻からの呼吸パターンを長時間記録することで、その人の心身の状態を見える化できる可能性があるということです。将来的には、呼吸指紋を使って健康状態やストレス、病気の兆候などを早期にキャッチできるかもしれません。

私たち眼科医も、自律神経の影響やストレスが視機能に及ぼす変化を日常診療で感じることがあります。この「鼻呼吸の指紋」は、将来、心身の状態を読み取るための新たなバイオマーカーとして、目の健康との関連を探るヒントにもなるかもしれません。

普段は意識しない「呼吸」が、実は脳の働きと心の声を映し出している。そんな視点で日常の呼吸に少し目を向けてみるのも、健康づくりの第一歩になりそうです。

参考論文:Soroka, T. et al. (2024). Humans have unique nasal respiratory fingerprints.(掲載誌:Cell Reports
DOI: 10.1016/j.celrep.2024.114021  (この論文は星進悦先生にXで教えてもらいました)

メルマガ登録
 

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

最近の記事

  1. 日米の実効税率を比べて考える:我々はいったいいくらの税負担をしているのだろうか?

  2. 宇宙に行くと遠視化で視力が下る?――宇宙飛行士の目に起こる不思議な変化

  3. 自由ヶ丘ラーメン仙花 豚しゃぶごまだれ麺 自由が丘前でも歴史のあるラーメン店