高円寺の路傍で出勤途中で見かけたまことに小さな花が房状に咲いた植物、柳花笠。こんな小さな花にも名前も物語もあるのですね。
高円寺の路地に咲くヤナギハナガサと目の健康の小さなトリビア
高円寺の路地を歩いていると、細い茎の先に小さな紫色の花がこんもりと房状に咲いている姿に出会いました。夏から秋にかけて咲くこの花は「バーベナ・ボナリエンシス(Verbena bonariensis)」といい、日本では「ヤナギハナガサ」と呼ばれています。柳のようにすらりと伸びた茎の上に、まるで笠のように小花がまとまって咲く姿が名前の由来です。
直径わずか数ミリの星形の花が密集して咲くため、遠目には淡い紫の霞のように見えます。茎は1〜2メートルほどの高さになり、風に揺れる姿がとても涼やかです。庭園や街路に植えられることも多く、丈夫で日当たりさえ良ければ都会の路地でもよく育ちます。
歴史的背景と名前の由来
バーベナ属の植物は世界中に広く分布し、特に南米原産のものが多いとされています。このヤナギハナガサも南アメリカが原産で、18世紀にヨーロッパに渡り、観賞用として広まりました。学名の「bonariensis」はアルゼンチンの首都ブエノスアイレス(Buenos Aires)に由来するといわれています。異国の地名がそのまま植物名に残っているのも興味深い点です。
また、バーベナは古代から「魔法のハーブ」とも呼ばれてきました。古代エジプトでは神に捧げる花とされ、ローマやケルトの文化圏では薬草や護符として利用された歴史があります。西洋では「神聖なハーブ」「癒しの植物」として扱われてきたのです。
ハーブとしての利用
現在でも、バーベナ属のいくつかの種類はハーブティーや民間薬として親しまれています。特に「レモンバーベナ(コウスイボク)」は爽やかな香りで知られ、ハーブティーとしてリラックス効果をもたらすほか、消化促進や不眠改善に用いられることがあります。ヤナギハナガサ自体は観賞用が中心ですが、同じ仲間の植物にハーブとしての効能が認められているため、古来より「癒し」や「鎮静」と結びつけられてきました。
紫色の小花には視覚的な効果もあります。紫色は心理的に「鎮静」「精神安定」をもたらす色とされ、見ているだけでリラックスできるという研究もあります。仕事や勉強で目を酷使しがちな現代人にとって、この紫の群れ咲く花は、知らず知らずのうちに心と目を休める役割を果たしているのかもしれません。
目との不思議なつながり
眼科医の目から見ると、この花房の形がどこか「視神経乳頭」にも似ています。視神経乳頭は眼底検査でよく観察する部分で、ここから神経線維が四方に広がっていきます。その姿は、まるで花の中心から小さな花びらが放射状に広がっていくヤナギハナガサの姿を思わせます。
また、紫色という色は、長波長の赤や中波長の緑と比べると短波長で、網膜に届く光量は少なめです。そのため、紫色を見ているときは網膜への刺激も比較的穏やかになり、まぶしさを感じにくい色とされます。「癒しの紫」という言葉があるのも納得できます。
高円寺の路地で出会う癒し
こうした歴史や効能を知ってから眺めると、街角で咲く一株のヤナギハナガサにも新たな魅力が感じられるはずです。南米からヨーロッパを経て日本にやってきた花が、いま東京の路地で静かに咲いている。その姿は、時代や場所を超えて人々を癒してきたハーブの系譜を感じさせます。
歩き疲れたとき、目が疲れてきたとき、ふと足元に咲くこの小さな紫の群れに目を留めてみてください。きっとその瞬間だけでも、目と心に小さな安らぎをもたらしてくれることでしょう。
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