小児の眼科疾患

[No.3945] 未熟児網膜症を非接触で超広角に撮影する新技術 ― Optosによる挑戦;論文紹介①

未熟児網膜症を非接触で超広角に撮影する新技術 ― Optosによる挑戦

背景

未熟児網膜症(ROP)は、早産児に特有の網膜の血管異常で、進行すると失明の危険がある重大な病気です。そのため、早期発見と治療後の経過観察が欠かせません。従来の診療では「間接眼底鏡」による直接診察や、接触式のRetCamというカメラでの記録が主流でした。しかしRetCamは眼に直接触れる必要があり、赤ちゃんへの負担や感染リスクが問題視されていました。そこで登場したのが、非接触で広い範囲の眼底を撮影できる「Optosスキャニングレーザー検眼鏡」です。今回紹介する論文は、この装置を未熟児網膜症の診療に導入し、その有用性を報告したものです。

研究の目的と方法

研究は2012年8月から11月にオックスフォード眼科病院で行われました。未熟児網膜症で通院していた患児を対象に、通常の診察と必要に応じた前眼部撮影を行ったうえで、Optosを用いて眼底を撮影しました。赤ちゃんは「空飛ぶ赤ちゃん(flying baby)」と呼ばれる特殊な体位でカメラに向けられ、非接触のまま超広角の撮影が試みられています。

結果

9人の患児で撮影が成功し、次のような成果が得られました。

  • 網膜の中心部から周辺部まで一度に広範囲を撮影できた

  • 未熟児網膜症の各病期に特徴的な所見が鮮明に記録された

  • レーザー治療や抗VEGF薬(ベバシズマブ)投与後の改善の様子が捉えられた

  • レーザー治療で照射が不十分だった「スキップ領域」が周辺部で確認できた

つまり、診断だけでなく治療効果の判定や追加治療の判断にも役立つ可能性が示されました。

結論

Optosによる非接触・超広角眼底撮影は、未熟児網膜症において臨床的に有用な高画質画像を得ることができ、治療経過の追跡や再発防止に役立つと考えられます。接触を避けられるため感染リスクが低いことも大きな利点です。今後、ROP管理の新たな選択肢として広がる可能性が期待されます。


出典

Patel CK, Fung THM, Muqit MMK, et al.

Non-contact ultra-widefield imaging of retinopathy of prematurity using the Optos dual wavelength scanning laser ophthalmoscope.

Eye (Lond). 2013;27(5):589–596. doi:10.1038/eye.2013.45


👨‍⚕️ 清澤のコメント

未熟児網膜症は、早産児の将来の視力に大きな影響を与える病気です。この論文は、赤ちゃんに優しく、かつ診療の精度を高める新しい技術の可能性を示しています。Optosは大規模な施設であれば導入されている機器ですが、撮影には工夫が必要です。特に、赤ちゃんを仰臥位で寝かせた状態ではなく、特殊な体位で行うため、眼科医にとっては散瞳しても簡単に撮影できるとは限りません。それでも、感染リスクを減らしつつ広範囲を一度に観察できる利点は大きく、今後の実用化が注目されます。

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