幼児虐待疑いにおける超広角眼底撮影OPTOSの活用
背景
乳幼児に起こる「虐待頭部外傷(Abusive Head Trauma: AHT、いわゆる揺さぶられっ子症候群)」は、乳児期の外傷死の最も一般的な原因とされ、死亡率は約30%、重い後遺症を残すのも同程度と報告されています。診断の中心となるのは脳内出血や意識障害に加え、眼底に見られる網膜出血です。これらの所見は法的判断に直結するため、正確で鮮明な記録が必要です。従来はRetCamという接触型カメラが標準でしたが、非接触で広範囲を一度に撮影できるOptos装置の有用性が検討されました。
目的
この研究では、Optos P200MAという非接触型超広角走査レーザー眼底カメラを用いて、AHTが疑われた乳児の網膜を撮影し、その安全性と診断への有用性を確認することを目的としました。
方法
対象は1~15か月の5人(10眼)の乳児で、虐待頭部外傷が疑われ眼科的意見を求められた症例です。全例でOptosによる非接触型超広角撮影を行い、1例では蛍光眼底造影も実施しました。主要な評価項目は「鮮明な眼底画像が得られるか」と「撮影時の安全性(心拍数や酸素飽和度の変化)」でした。
結果
すべての症例で良好な画質の眼底写真を一枚で取得できました。
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3例では広範な急性網膜出血を記録し、AHT診断に貢献しました。
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1例では慢性の前黄斑下出血や黄斑分離が確認されました。
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1例では出血がなく、AHTを否定する材料となりました。
また、全例で心拍や酸素の変動はなく、安全性が確認されました。
結論
Optos P200MAは、乳児においても安全に使用でき、非接触で広角の高画質眼底写真を一度に記録できる有効な方法と示されました。従来のRetCamと比べて、特に安定した乳児では有用な代替手段になり得ます。
出典
Yusuf IH, Barnes JK, Fung THM, Elston JS, Patel CK. Non-contact ultra-widefield retinal imaging of infants with suspected abusive head trauma. Eye (2017) 31, 353–363. doi:10.1038/eye.2017.2
清澤のコメント
AHTの診断は医学的にも社会的にも極めて重い意味を持ちます。眼底所見は客観的な証拠として裁判でも重視されるため、鮮明な写真記録が不可欠です。非接触で乳児の負担を減らしながら記録できるOptosの技術は、今後さらに活用の場が広がる可能性があります。ただし現場で常時利用できる施設は限られており、また患者を空中に保持しないとなりませんから、実際の運用には課題も残ります。調べてみると、従来のレットカムという機種では患者を寝かせて眼表面にゲルを付けて、対物レンズを眼表面に接触させて120度程度の眼底を撮影する仕組みだったと説明されていました。
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