小児の眼科疾患

[No.4097] 小児の近視管理最前線 ― 今こそ知りたい!

小児の近視管理最前線 ― 今こそ知りたい!

近視はかつて「眼鏡で矯正すればよい」ものと考えられてきましたが、現在は「進行性の病気」として捉えられています。小児期に近視が始まると、成人期の強度近視につながり、網膜剝離・緑内障・近視性黄斑症など重い視覚障害の原因となり得ます。だからこそ、子どものうちから進行を抑えることが、将来の失明予防につながります。

【1.日本の現状】
日本では近視が増加しています。40歳以上の成人でも約4割が近視ですが、若年層では6割を超えます。小学生では1年生の約17%、中学3年生では6割以上が近視です。新型コロナ以降は在宅学習やタブレット使用が増え、発症の低年齢化が進んでいます。

【2.社会的影響】
近視が進むと、眼鏡で矯正しても生活満足度が下がることがあります。強度近視では視覚障害の危険が高まり、医療費や社会的負担も増大します。子ども本人だけでなく、視力低下を不安に感じる保護者の心理的負担も無視できません。WHOも「近視対策は失明予防の最優先課題」と位置づけています。

【3.なぜ進行抑制が大切か】
小児期に近視の進行を1ディオプター(D)抑えるだけで、将来の近視性黄斑症や開放隅角緑内障の発症を約3〜4割減らせると報告されています。にもかかわらず、実際に治療の説明を受けた家庭は約2割にとどまり、情報提供の不足が課題です。

【4.近視の原因とリスク因子】
遺伝に加え、長時間の近距離作業(読書・ゲーム・タブレット)、屋外活動の不足、教育環境などが影響します。特に8歳前後は進行が速く、早期の介入が重要です。

【5.近視を防ぐ・進行を抑える方法】

● 屋外活動と近業対策

日中2時間以上の屋外活動は、近視の発症・進行を抑えます。学校や家庭では「3つの30」=「30分近業→30秒遠くを見る→30cmの距離を保つ」の習慣化が有効です。

● 低濃度アトロピン点眼

0.025〜0.05%の低濃度アトロピンは、近視進行を約40〜70%抑制します。特に0.05%は効果が高いことが示されています。日本でも2025年から「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」が使用可能になりました。治療の中断・再開の時期によってリバウンド(進行の戻り)が変わるため、年齢や進行度に合わせた計画が大切です。

● 近視管理用眼鏡

HOYAのMiYOSMART®やEssilor Stellest®など、特殊設計のレンズが代表例です。周辺網膜に焦点のズレ(デフォーカス)を作り、眼軸の伸び(眼球の奥行きの伸長)を抑えます。リバウンドは基本的にみられず、安全性も高いとされています。処方時は正確な度数測定、瞳孔間距離、レンズのセンタリング確認が重要です。

● 多焦点ソフトコンタクトレンズとオルソケラトロジー

MiSight® 1 day は世界初の「近視進行抑制用」承認レンズで、3年間で約6割の進行抑制が確認されています。夜間装用で角膜形状を整えるオルソケラトロジーも有効な選択肢です。ただし小児では角膜感染のリスク管理が不可欠で、医師の指導と定期検査が必要です。

● 赤色光療法(RLRL)

650nmの赤色光を1回3分、1日2回照射する新しい治療法です。眼軸が短くなるという従来にない結果が報告されていますが、まれに網膜への影響が指摘され、安全性に関する議論が続いています。導入施設では、医師管理下で症状の聞き取りやOCTなどのチェックを行い、安全に配慮して運用します。

【まとめ】
近視管理は「見え方を矯正する」段階から、「進行を抑える」段階へと進化しました。屋外活動の習慣化、低濃度アトロピン、近視管理用眼鏡、コンタクトレンズ、オルソケラトロジー、そして赤色光療法まで、選択肢は拡がっています。大切なのは、科学的根拠に基づき、年齢・進行度・生活習慣に合わせて最適な組み合わせを選ぶことです。定期的な検査と丁寧な説明で、お子さまの未来の視力を守っていきましょう。

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清澤のコメント
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五十嵐多恵先生(都立広尾病院眼科)の総説は、最新エビデンスを簡潔に整理し、家庭・学校・医療の三位一体で取り組む近視管理の道筋をわかりやすく示しています。低濃度アトロピンと特殊設計レンズは現在の柱であり、MiSight®やオルソケラトロジーも有力です。赤色光療法は期待が大きい一方で、医師の監督下での安全管理が不可欠です。自由が丘清澤眼科でも、お子さまの年齢や生活に合わせた「個別化近視ケア」をご家族と相談しながら提案してまいります。

東京眼科医会報 2025年第273号秋 P2-8

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