学生の眼球打撲と「隅角乖離と緑内障」
― ぶつけた直後だけで終わらない目のケガ ―
学生さんが部活動やスポーツ中に眼を強くぶつけることは、決して珍しいことではありません。多くの場合は「少し痛かった」「赤くなった」程度で済みますが、実は数年〜数十年後に緑内障の原因になることがある外傷が隠れている場合があります。その代表が**隅角乖離(ぐうかくがいり)**です。
どんなスポーツで起こりやすいのか
眼球打撲は、ボールや相手の体が顔に当たる競技で起こりやすく、特に以下のスポーツが注意対象です。
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バスケットボール(肘やボールが眼に直撃)
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サッカー(至近距離からのボール)
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野球・ソフトボール(打球・送球)
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テニス・バドミントン(高速で飛ぶボールやシャトル)
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格闘技・武道(突きや打撃)
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ラグビー・ハンドボール など
特にゴーグルなどの防具を着けていない状況では、眼球が直接衝撃を受けやすくなります。
眼球打撲が起きやすい状況
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至近距離からボールが飛んできた
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相手選手の肘・手・頭が当たった
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転倒時に床や器具に顔をぶつけた
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集中していて瞬きが遅れた
このような場面では、眼球が一瞬で強く押しつぶされるため、眼の内部構造に大きな力がかかります。
眼球打撲で起こりやすい主な外傷
眼球打撲では、見た目以上に眼の中が傷ついていることがあります。
① 前房出血
黒目の奥(前房)に血液がたまる状態です。視界が赤くかすみ、眼圧が上がることがあります。
② 隅角乖離
眼圧の出口にあたる「隅角」が裂ける状態です。痛みがなく、その場では気づかれにくいのが特徴です。
③ 硝子体出血
眼の奥の透明なゼリー状の部分に出血が起こり、急激な視力低下や「黒い影」が見えます。
④ 網膜振盪・網膜裂孔
網膜が打撃でダメージを受け、将来網膜剥離につながることもあります。
後から問題になる「隅角乖離緑内障」
隅角乖離そのものは、受傷直後には症状がほとんどありません。しかし数年〜数十年後に、眼圧が徐々に上がり、視野が狭くなる緑内障を発症することがあります。
このタイプの緑内障は、
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気づいたときには進行している
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自覚症状が乏しい
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若い頃のケガを忘れている
という特徴があり、過去の眼球打撲歴を問診で確認することが非常に重要です。
視力低下・視野障害の具体例
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片眼だけ見えにくくなった
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視野の一部が欠けている
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明るさは保たれているのに、ぶつかりやすい
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健康診断で視野異常を指摘された
これらの症状が、学生時代の眼のケガと関連していることもあります。
治療と経過観察の原則
① 受傷直後
前房出血や網膜障害の有無を確認し、安静・点眼治療・眼圧管理を行います。
② 隅角乖離が見つかった場合
症状がなくても、定期的な眼圧・視野・OCT検査が必要です。
③ 緑内障を発症した場合
基本は点眼治療で眼圧を下げ、進行を抑えます。必要に応じてレーザーや手術を検討します。
まとめ
学生時代の眼球打撲は、「その時治ったから大丈夫」と思われがちですが、将来の緑内障につながることがある重要な出来事です。
「昔、部活で眼を強くぶつけたことがある」という方は、症状がなくても一度眼科で相談することをお勧めします。
眼のケガは、時間がたってから問題になることがある。
これが、眼科からお伝えしたい大切なメッセージです。



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