上司と部下、同僚同士、会長と社長、頭取と専務など設定はさまざまだが、地の文による場面の描写は抑えられ、ふんだんに展開される生々しいやりとりが臨場感を強める。読み進むと、今そこで交わされているように感じられ、一気に作品世界に引き込まれる。:
サラリーマンならだれしも経験する人事異動の際の一場面。本作は一九八八年の刊行だが、三〇年たっても古びた印象がしないのは、企業社会の本質である「組織と人間」の問題を、「辞令」というそのものずばりのモチーフで活写しているからにほかならない。
主人公の広岡修平(四六)は大手音響機器メーカー、エコー・エレクトロニクス工業の宣伝部副部長。突然の左遷の内示を受け、衝撃を受ける。正義感と情熱にあふれ、第一選抜で進んできた広岡に失策はなく、左遷される理由は思い当たらない。自ら調査に乗り出すとオーナーである小林一族の思惑に行き当たる。
二万人の社員を擁する大企業でありながら、世間からは「小林商店」と見なされている。会長の小林明の強力なリーダーシップとファミリーの存在。人事は公平であるべきだが、小林の妻信子、次男の秀彦(ジュニア)らのわがままと、その意向を忖度(そんたく)する幹部たちが公平性を歪めていく。広岡は異動先である人事部の副部長で同期の大崎堅固から衝撃の事実を聞かされる。ーーー
この本の中で清澤の印象に残った一節:それを的確に探し出すことができなかったのですが、「オーナー経営者はかまどの灰まで自分のものだと思いたがる。」という内容が妙に耳に残りました。会社でも役所でも集団は個人の所有物ではありません。社長一族で、引き継いでゆくという会社にはありがちな話でしょう。他dし、供応を受けるような行為は、上司に相談すればよいというものではなく、やはり慎まねばならないのでしょう。
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