ドライアイ

[No.1271] 米当局が警鐘「レーシック後遺症リスク」の具体例視覚異常やドライアイ、うつ状態に陥る場合も

清澤のコメント:ニューヨークタイムスがレーシックの危険性を警告する記事を掲載し、それを東洋経済が転載している。この記事によれば米国ではいまだに年間50万件以上の近視矯正手術が行われているという。日本でも最盛期には多くの施設がこの手術の機材を導入し、年間50万件程度の手術が行われた。しかし、手術術式に関係のない、銀座の診療所での不十分な滅菌操作による2008年9月から2009年2月にかけての角膜感染症の多発をきっかけに、市民の間でこの手術に対する警戒感が高まった。日本眼科学会総会での展示パネル(注1)によれば、手術数は年間5万件程度にまで減少したという。そもそもこの手術では時に苦痛を伴う斜視や眼精疲労を生じるケースが有った。更に術後に多くのドライアイ症例が見られることを眼科臨床医は日ごろ目にするところである。湾岸戦争当時に米軍は、砂漠地帯でもコンタクトレンズ無しでの軍務を可能にするために、PRK(photorefractive keratectomy)手術費用を軍が負担してこの手術を兵員に勧めるプログラムが行われた。しかし、この結果生じたドライアイは無視できる頻度ではなかった為に、PRK手術歴を持ち退役後もドライアイ治療を必要とする退役軍人に対しては、その補償が行われている。

注1:慶応大学根岸准教授データ。

ここでは、「東洋経済」の記事を抄出する。

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米当局が警鐘「レーシック後遺症リスク」の具体例視覚異常やドライアイ、うつ状態に陥る場合も https://toyokeizai.net/articles/-/639385

アメリカでは毎年50万人を超える成人が、視力改善のためにレーシック手術を受けている(写真:Uli Seit/The New York Times)

レーシック手術を検討している患者に対し、ものが二重に見える複視、ドライアイ、夜間の運転のしづらさ、そしてまれにではあるが慢性的な眼痛が残る可能性があると警告するガイダンス案が、アメリカ食品医薬品局(FDA)によって作成された。手術しても眼鏡が不要にならない場合もある、といった警告も含まれている。

アメリカでは毎年50万人以上が受けている

ガイダンスが発効すれば、衝撃を受ける国民は多いだろう。アメリカでは、レーシックは一般的で安全な手術と考えている人が多いからだ。毎年50万人を超える成人が、視力改善のためにレーシック手術を受けている。

角膜を削って形状を変更するのが、レーシック手術だ。角膜は眼球の前面を覆う透明なドーム状の膜で、そこで集められた光が眼球後方の網膜に映し出される。レーシック手術では、まず角膜に切れ目を入れてフラップと呼ばれるふたを作成。そのフラップをめくり、角膜をレーザーで削って光の屈折率を調節した後、フラップを元に戻す。

手術は通常、片眼につき15分もかからないが、保険適用外の美容外科手術に分類されるため、数千ドル(数十万円)の費用を患者が全額自己負担するのが普通だ。レーシック手術を手がけるクリニックは、患者の90〜95%が結果に満足しているという調査結果を根拠に、無料相談や大幅な値引きを提供して手術を勧めることが多い。

FDAのガイダンスは最終版となっているわけではない。7月に草案が公開されて以降、600を超える個人と団体がコメントを寄せており、FDAは現在、寄せられたコメントを精査しつつ最終版の作成を進めている段階だと、当局者らは語っている。

クリニックや医療機器メーカーを代表する団体は、医療活動への干渉だとして反発。FDAの情報は一方的かつ患者を不必要に怖がらせるものだと非難している。眼科医の多くは、レーシック手術は安全であり、深刻な後遺症が長く続くことは珍しいと話す。

「私たちはバランスを求めているだけだ」。アメリカ白内障屈折矯正外科手術学会の次期副会長、ヴァンス・トンプソン医師は「ガイダンスはレーシック手術の危険と後遺症ばかりを強調し、手術のメリットにまったく言及していない。トーンは極めてネガティブで、患者に恐怖を与えるものとなっている」と話す。

FDAが危険ばかりを強調する理由

だが、FDAのガイダンス草案によると、少人数ではあるがレーシック手術を受けた患者の中には、後遺症のために重度のうつ病になり、自殺まで考えた人もいる。糖尿病など一部の慢性疾患のある患者や特定の医薬品を使用している患者は、思わしくない手術結果となる危険にさらされる可能性があるとも記されている。

FDAは10年以上を費やしてガイダンスの作成を進めている。そこでは、レーシック手術は眼鏡への依存を減らすために行われるということも手短に記されているものの、29ページにわたるガイダンス草案のほとんどはリスクに関するものだ

クリニックや医療機器メーカーは、草案の完全な取り下げを求めている。ただ、レーシック手術の問題点を指摘してきた人々は、リスクに焦点を絞るのは適切だと話す。というのは、レーシック手術は病気の治療のためではなく、健康な眼に対して行われるものだからだ。

「この瞬間を14年間、待っていた」。レーシック手術で見え方がおかしくなり慢性の眼痛が残ったという証言を2008年と2018年にFDAに対して行ったフロリダ在住の女性、ポーラ・コーファーさんはそう話した。

コーファーさんは、FDAの新たな警告はレーシック手術を考えている人々にとって極めて重要な情報になると付け加える。「現状だと、患者がインターネット検索でレーシック手術に関する警告を見つけたとしても、結果に満足できなかった人間が1人か2人、わめいているだけだろうと考えてしまう。しかし、あのFDAの警告となれば重みが違う」。

FDAは、患者向けに「意思決定チェックリスト」を使用することを提案している。チェックリストは手術の内容を記したもので、そこには角膜の組織をレーザーで「蒸発」させることや、切開のダメージから角膜の神経が「完全には回復しない場合がある」こと、「その結果ドライアイおよび/または慢性の眼痛になる」といった記述も含まれている。

FDAのガイドライン草案によると、角膜は手術の傷が完全に治癒したとしても手術前の強度に戻ることはない。

FDAに寄せられたコメントの中には、レーシック手術によって人生が変わってしまうほどの後遺症や視界の悪化に苦しんでいるという患者の声もあれば、手術結果に大満足しているという声もあった。

視力検査を行って眼鏡やコンタクトレンズを処方する検眼士の職業団体は、FDAの草案を高く評価。妊娠中の患者や不規則な乱視の患者に対するレーシック手術の危険性について、さらなる警告を加えることを提案した。

約半数が視界異常

FDA草案の根拠となっているのは、レーシック手術の結果を調べた2017年の調査結果だ。同調査はFDA、アメリカ国立眼研究所、国防総省が協力して、レーシック手術の前と後で視覚症状をアセスメントしたもの。FDAはさらに、2013〜2018年に発表された査読済み論文のメタ解析も独自に行った。

前者の調査からは、レーシック手術後3カ月の時点で、手術前には視覚症状がなかった患者の半分近くが、手術後に新たな視覚異常を初めて覚えるようになったことが明らかとなった。最も多かったのはハロー、つまり光の周りに放射状の光の筋や輪が見える現象だった。また、3分の1近い患者が手術後3カ月でドライアイを訴えていた。

FDAが独自に行った分析では、レーシック手術後6カ月の時点で、27%の患者がドライアイを訴えており、2%の患者は通常の日常活動に支障が出るほどの問題を抱えていたことがわかった。

FDAによると、手術後5年の時点でも、17%は依然として目薬が必要な状態で、2%は引き続き視覚異常に悩まされ、8%は夜間の運転が困難な状況が続いていた。

FDAの当局者は、ガイダンスの最終版がいつ完成するのかはわからないと語った。FDAは手術前に患者に警告を確認させることを義務付ける方針ではないため、レーシック手術に批判的な人々は、多くの患者がこうした警告を目にする機会はもたらされないのではないかと懸念している。

それでもリスクの周知は徹底されないおそれ

FDAのガイダンスとチェックリストは、「(医療機器)メーカーが手術前に医師と患者に提供すべき」もので、手術のリスクと利点についての医師と患者の議論を「深める」のに使用されるとされている。

ただ、こうした患者との情報確認は勧告でしかないと、FDAの当局者らは認めている。医療製品などの消費者向け製品に関する研究を分析する非営利のシンクタンク、国民健康研究センターのダイアナ・ザッカーマン所長は、これは問題だと話す。

「問うべきは、FDAが患者に対して実際に有意義な変化をもたらそうとしているのかどうかだ」。ザッカーマン氏は「FDAがそうした方向で動いているとは思わない」と語る。

同氏が懸念するのは、患者が手術予定日に来院したときや「返金不能の頭金を払った後」に、初めてチェックリストを見せられる展開だ。「チェックリストの確認は頭金を支払う前の段階で、遅くとも手術予定日の1週間前には行うべきだと考えている」と、ザッカーマン氏は話した。

(執筆:Roni Caryn Rabin記者)
(C)2022 The New York Times

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