眼瞼痙攣

[No.2869] 「眼瞼痙攣・片側顔面けいれん友の会会報」設立20周年記念号に寄せて(下書き版です)

:「眼瞼痙攣・片側顔面けいれん友の会会報」設立20周年記念号に寄せて(下書き版です)

自由が丘清澤眼科 院長 清澤源弘
眼瞼痙攣は、顔の表情筋がジストニアという脳の異常により攣縮を起こす疾患で、両側の顔面筋が影響を受けます。一方、片側顔面けいれんは、小脳に向かう動脈が顔面神経に接触し、その結果、片側の顔面神経が過剰に興奮することで顔の一部が攣縮する疾患です。これらの疾患は、眼の周りだけでなく、口や鼻の周囲にも強い痙攣を引き起こす「メイジュ症候群」や「ブリューゲル病」としても古くから知られています。


治療法としては、精神安定剤などの薬剤が用いられることがありましたが、その効果は限定的でした。この状況を一変させたのが、カリフォルニアのアラン・スコット博士が開発したボトックス注射です。帝京大学の丸尾敏夫教授と岩重先生はスコット博士と連携し、このボトックスを日本に導入するために尽力されました。
1987年、私が留学していたフィラデルフィアのウイルズ眼科病院では、サビーノ教授がボトックスの米国内治験に参加しており、毎週決まった時間帯に多くの患者が治療を受けていました。当時、私はポジトロン断層法(PET)を用いた画像診断の研究をしており、サビーノ教授から「眼瞼痙攣の原因をPETで調べるべきだ」との助言をいただきましたが、眼輪筋は脳に比べて体積が小さく、PETでは異常が検出できないだろうと考えたので、この提案を真剣に検討することができませんでした。
その後、日本に帰国し、ボトックスはアラガン社により国内で使用されるようになりました。後にグラクソスミスクライン社の扱いになっています。まず眼瞼痙攣、その後は片側顔面けいれんに対する治療薬として国内治験が行われ、私も東京医科歯科大学でこの治験に参加したことが懐かしく思い出されます。このころ、私は再び眼瞼痙攣をPETで研究することを考えるようになり、病気の原因は眼輪筋ではなく脳にあるのではないかという仮説に至りその論文に到達できたのは20年後でした。
 Suzuki, Y., Mizoguchi, S., Kiyosawa, M, et al. Glucose hypermetabolism in the thalamus of patients with essential blepharospasm. J Neurol 254, 890–896 (2007).
当時、若倉先生は眼瞼痙攣患者の治療に力を注ぎ、看護師の荒川和子さんの助力も得て、患者であった東海林雅子さんらを中心とした「眼瞼痙攣友の会」を設立するよう励まされました。この会に先立ち、米国にはBenign Essential Blepharospasm Research Foundation (BEBRF 良性原発性眼瞼痙攣研究財団) が、1981年に設立されていました。この団体は、原発性眼瞼痙攣に関する研究促進や患者支援を行う目的で結成されたものです各地に支部を持ち、研究資金の提供や患者支援活動を行っていました。
日本の「眼瞼痙攣・片側顔面けいれん友の会」は、2000年初頭に、これらの運動障害に苦しむ患者たちを支援し、情報提供や患者間の交流を促進する場として設立され、以後重要な役割を果たしています。設立当初は、これらの疾患に対する認知が乏しく、診断や治療に時間がかかることが多かったため、患者は孤立しやすい状況にありました。友の会は、患者が自身の症状を理解し、適切な治療を受けるための支援を行い、医療従事者や社会に対しても疾患の理解を広めるために設立されました。
特にボトックス治療の普及に対する貢献は大きく、この注射薬は眼瞼痙攣や片側顔面けいれんに対する効果的な治療法の一つとして、多くの患者に希望を与えてきました。殊にその活動では100単位のバイアルしか製造されていなかったところを、50単位のバイアルの製造販売を要請して実行して貰うことで患者負担を減らさせたことは特筆されます。
私は若倉先生の勧めで、友の会の顧問として活動に参加し、例会や機関紙での質疑応答作成などを通じて微力ながら協力させていただいております。また、自由が丘清澤眼科のメールマガジンでは最新の眼瞼痙攣治療の情報を発信しています。今後も患者の皆さんの相談に応じ、友の会の活動に貢献していきたいと考えています。

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