ボトックスを含む眼瞼けいれん治療の雑学 自由が丘清澤眼科 清澤源弘
10月22日土曜日1:05PM-1:25PM オンラインのZOOMで講演
先ず会の役員側に挙げていただいた8個の質問にお答えします。
①問:打つ薬を増やしたら長く持つか?
「経済的にも心身ともに、なるべく注射を打つ期間は長くしたいという気持ちがあります。」
答:一定量の薬が神経末端の伝達物質放出を止め、徐々にそれが切れて痙攣の症状が戻ってゆきます。ボトックスは一本50単位の瓶であり、それ以上を普通は打ちません。また眼瞼痙攣では40単位程度を、片側顔面けいれんでは25単位程度を使っています。たくさん打ったからと言って、長持ちすることはありません。必要以上に多く打てば、眼が閉じにくく、顔が固まったようだなどの副作用が強くなりますので、不用意に多くすることは勧めません。通称「パスポート」に使用量と注射部位を記載します。増やしたいというなら1割程度増やし、強すぎたと言えば1割程度減らします。前回と同程度でと言ってもらえれば良いでしょう。8週以内での投与は禁止されています。ブースター投与、いわゆる追加もできません。患者さんが次までの期間を我慢して4-6月(あるいは12か月)にするならば、それはそれでよろしいです。私は反対しません。
【ボツリヌストキシンの作用機序の概要】神経毒の中で最も強力なボツリヌス毒素は、神経筋接合部で神経伝達物質 (アセチルコリン) のシナプス前放出を遮断することで麻痺を引き起こし、筋線維の可逆的な化学的除神経を行い、それによって部分的な麻痺と萎縮を引き起こします。化学的除神経は可逆的であるため、ボツリヌス毒素には一時的な影響があり、筋肉は神経の発芽によって徐々に再神経支配されます. A型ボツリヌス毒素(Bix-A)には、ボトックスとディスポートの2つの剤形があります。
②問:ボトックスはなぜ何処に打っているのか?基本形は?
「ボトックスを打つことでどういう作用があるのか知りたい。筋肉に麻酔をかけているということでしょうか。」
答:注射の意味は前問で述べました。打ち方は、
眼瞼痙攣ならば ①各目の周りに6か所、上瞼の内外の端で瞼の縁に近いところ。眼瞼下垂を起こさないように。下瞼も同様に2か所。2センチ眼から下に離れて1つ。目尻の外1センチに1つ。計12点:閉瞼を止めるため。 ②眉間に2つ、眉山の頂点の上に各1つ。計4点、半量。眼をひそめるのを止める ③必要なら(私が三村式と言っているが)鼻の低いところと鼻翼に左右1つずつ。(計3点)鼻周りの力を抜く目的で半量。
片側顔面けいれんならば:①片眼周囲6点。②眉間4点、同上。半量 ③ 小鼻の横2つ。半量 ④ 口の横2つ、少し下にずらす。半量
これらは、薬剤に添付されている説明書に記載があります。
麻酔ではないが、アセチルコリンが神経から出ないようにして筋を麻痺させる。麻酔は一時間くらいのみ効き、ボトックスは2-3か月効く。
③問:眼瞼痙攣の原因は何か?新しい医療情報はないか?
「特に新しい情報、研究の進展を知りたい。」
答:ジストニア(筋の異常緊張)という物であって、錐体外路の神経伝達が不調。最近の話では、片側顔面けいれんでも神経圧迫の結果で同じことが起きていることが証明されつつある。だから、ジャネッタ手術(顔面神経圧迫除去手術)してもすぐには効かないこともあるという。
④問:眼瞼痙攣に新薬はないのか?
「飲み薬等、何かあれば試してみたい。」
最初ならツムラ抑肝散加陳皮半夏から。リボトリールとアーテンはすでに使われている。これは、この疾患がギャバとベンゾジアゼピンを介したイオンチャネルの異常であり、ベンゾ薬が瞬間的には結構効く。しかし、長期使用は依存の危険がある。このほかの新薬は知りません。
⑤問:いつかは進行して重症のメイジュ症候群になってしまうのか?
「眼瞼以外にもこわばりを感じるときがあり、進行していくのか不安な気持ちを拭えない。」
答:必ず広がるというものではない。メイジュで開瞼困難になれば、眼輪筋切除なども最後の手段として頼むことがある。どこかで落ち着くことが多いようだ。心理学的サポート(森田療法、悟りを求める)もできる。
⑥問:頭頸部ジストニアとはどういう物か?
「眼瞼痙攣との関係など知りたい。」
答:ジストニアというのは、筋の異常緊張の意味。同じもので、眼周りなら眼瞼痙攣。口まで広がればメイジュ症候群。そして首や肩の症状まであれば、頭頸部ジストニアと呼ぶ。ジストニアの概要は、ジストニアは、筋肉が無意識に収縮する運動障害です。これにより、繰り返しまたはねじれた動きが発生する可能性があります。
この状態は、身体の一部 (局所性ジストニア)、隣接する 2 つ以上の部分 (分節性ジストニア)、または身体のすべての部分 (全身性ジストニア) に影響を与える可能性があります。筋肉のけいれんは、軽度から重度までさまざまです。それらは痛みを伴う場合があり、日常業務のパフォーマンスを妨げる可能性があります。
ジストニアの特異的な治療法はありませんが、投薬と治療により症状を改善できます。外科手術は、重度のジストニア患者の神経または特定の脳領域を無力化または調節するために使用されることがあります。)
⑦問:眼瞼痙攣での開瞼障害以外の眼合併症は?
「合併症やボトックス注射の副作用などはないものか不安である。」
答:若倉先生がよくお話になるところで、眼を開けられないという眼瞼運動障害のほかに心理的な鬱症状と神経過敏がある。うつ症状はセスデイーCES-Dを聞いて16点以上なら鬱傾向と判定する。がん瞼けいれんの治療でこの点数は改善することが多い。神経過敏は眩しさや目の痛みなどが代表的です。
⑧問:眼瞼痙攣では百人百様、どうしてそれぞれ違った症状なのでしょうか?(追加質問です)「友の会に入会すれば私と同じ症状の方には会えるのかと思っていました。」
答:確かに症状は様々ですね。基本的には①運動症状(開瞼維持困難。眼を開く筋と閉じる筋が同時に緊張して争ってしまうため起きます)、②過敏症状(羞明と眼痛)、③精神症状(鬱傾向)と分けて考えると理解しやすいかもしれません。ドライアイの合併も多く、ヒアレインやムコスタ点眼のほか、涙点プラグも良い場合があります。あらかじめ用意した質問と答えはこれでおしまい。
―――――――――――――――
次に「眼瞼痙攣の治療を成功させる10のコツ」をおさらいします。
清澤のコメント:以前に眼瞼痙攣治療を成功させる10のヒントやコツをまとめました。私は、ボトックスを使う眼瞼痙攣の治療を始めてひと月程度たったところで、もう一つ二つの治療手段が残されていないかを見返すために、このリストに当たるようにしています。
1)痙攣の状態の把握には「自己評価表(若倉表)」を用いる.原発性眼瞼痙攣でも薬剤性眼瞼痙攣でも多くが陽性を示す.瞬目テストは患者に「軽瞬」「速瞬」「強瞬」をさせる.治療歴の聴取もおこなう.片側顔面けいれんでは値が低い。
2)涙液の質と量の評価.ドライアイ症例には点眼治療とプラグ挿入も有効.
3)MRI画像診断:眼瞼痙攣は基本的に正常.片側顔面痙攣では血管圧迫がよく見つかる。圧迫所見があるからと言って手術を勧める訳ではない。
4)「眩しさ」「痛み」への治療として遮光眼鏡を処方することができる。
5)眼輪筋へのボトックス投与.重症度と反応を診て,量を増減する。副作用を十分説明する.
6)内服薬の併用,Clonazepam(リボトリール®)などの内服薬を投与する場合もある.「抑肝散加陳皮半夏」や「抑肝散」投与も可能。
7)症状を軽減する知覚トリックを利用する方法で,クラッチ眼鏡も有効.
8)最終手段として眼輪筋切除術がある。その操作に慣れた形成外科に依頼する。
9)医療者側からの積極的な働きかけが必要。「眼瞼・顔面けいれん友の会」の紹介や,「目と心の健康相談室」の利用もすすめる.
10)患者のニーズを把握する(どこをどうしてほしいのか?)よう努めることが肝要。原点に戻り苦痛を除く工夫を怠らない.
――――――――
★:一般的に眼瞼痙攣の治療には次のものがあります。
眼瞼痙攣の現在の根治的な治療法はありませんが、治療の可能性はあります。これらには以下が含まれます:
経口薬
眼瞼けいれんの一部の症例では、いくつかの薬が役立つことがわかっています。これらの医薬品は多くの異なる医薬品カテゴリーに属しており、眼瞼痙攣の治療薬として FDA の承認を得ていないものが多いため、適応外で使用されることがあります。しかし、彼らはこの厄介な病気の効果的な治療に希望を持っています. これらの薬には、クロノピンとしても知られるクロナゼパム、アティバンとしても知られるロラゼパム、ハルドールとしても知られるハロペリド、バリウムとしても知られるジアゼパム、およびアンビエンとしても知られるゾルピデムが含まれます。
注射
ボツリヌス毒素(BOTOX®)、インコボツリヌス毒素A(XEOMIN®)、またはアボボツリヌス毒素A(DYSPORT®)の影響を受けた眼の筋肉への注射は、現在、眼瞼痙攣の最も成功した治療法です。
手術
薬や注射で眼瞼痙攣の治療に効果がないことが判明した場合は、手術が推奨されることがあります。この状態に対する外科的処置は、筋切除術と呼ばれます。影響を受けた筋肉の一部を切除して症状を緩和します。手術後にボツリヌス毒素の注射が必要になる場合があります。
脳深部刺激
まだ実験段階ですが、この治療法は眼瞼痙攣の治療において重要な可能性を示しています。
代替治療
眼瞼痙攣の症状と戦うために、単独で、または処方された薬や注射と組み合わせて、代替治療が使用されることがあります. これらの治療には、鍼治療、カイロプラクティック ケア、バイオフィードバック、栄養療法などがあります。
(終わり)
コメント