今年も日本眼科学会が東京フォーラムで開かれます。その抄録がネットに開始されましたのでその特別演題の抄録を先読みして採録してみました。
◎特別講演①
講演タイトル:角膜難病による失明の克服を目指して
講演者:外園 千恵 教授(京都府立医科大学 眼科・視覚機能再生外科学)
概要
突然の高熱とともに全身の皮膚や粘膜にただれが起こる「スティーブンス・ジョンソン症候群(SJS)」およびその重症型「中毒性表皮壊死融解症(TEN)」は、命に関わることもある重い病気です。命が助かった後も、視力障害や重度のドライアイといった眼の後遺症が残ることが多く、失明につながることもあります。
外園教授は、こうした病気による視力障害を防ぐために、診療ガイドラインの整備や全国調査、新しい治療法の開発、さらには発症しやすい体質の研究まで、包括的な取り組みを行っています。
主なポイント
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早期発見と治療の重要性:眼の充血が皮膚症状に先行することが多く、初期のステロイド点眼が視力の維持に有効と考えられています。
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新しい移植治療(COMET):患者自身の口の中の細胞を培養し、角膜に移植する方法が開発され、2023年から保険適用に。
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視力補助コンタクトレンズ:治療後の視力安定とQOL向上に貢献する特別設計のコンタクトレンズも実用化。
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遺伝的要因の解明:発症に関連する遺伝子の特定と動物実験による再現を通じて、なぜ特定の人に強く起こるのかを探っています。
◎特別講演②
講演タイトル:角膜が魅せる「神経と創傷治癒」の淵源
講演者:雑賀 司珠也 教授(和歌山県立医科大学 眼科学教室)
概要
角膜は、皮膚の約400倍もの感覚神経が分布する非常に敏感な組織です。この神経が損傷すると、角膜がうまく治らなかったり、潰瘍になったりすることがあります(神経麻痺性角膜症)。
雑賀教授の研究では、2021年ノーベル賞で注目された「TRPチャネル」と呼ばれる分子が、神経のはたらきと創傷治癒の両方に関わっていることがわかってきました。神経は「感じる」だけでなく、角膜の透明性や構造を保つうえでも重要で、損傷すると角膜が皮膚のような状態に変化してしまうことも動物実験で示されています。
これらの知見は、角膜の再生医療や新しい治療法の開発に大きく貢献すると期待されています。
◎招待講演①
講演タイトル:加齢黄斑変性における遺伝子・加齢・環境の交差点
講演者:Anand Swaroop 博士(米国・国立眼研究所)
概要
加齢黄斑変性(AMD)は、視力が徐々に低下していく高齢者に多い病気です。遺伝的な体質、加齢、食事や喫煙といった環境要因が重なって発症することが分かっていますが、詳しい仕組みはまだ明らかではありません。
スワループ博士は、数多くの家系調査や網膜のDNAの変化の分析を通じて、AMDに関与する遺伝子や仕組みを解明しようとしています。エピゲノム(遺伝子の働きを調整する仕組み)の変化も重要な要素であり、今後の予防や新たな治療法開発に役立つと期待されています。
◎招待講演②
講演タイトル:緑内障が日常生活に与える影響と、その改善方法
講演者:Pradeep Ramulu 博士(米国・ジョンズ・ホプキンス大学 ウィルマー眼研究所)
概要
緑内障は、本人が気づかないうちに視野が狭くなっていく「静かに進む病気」です。しかし、見えにくさは生活のさまざまな場面に影響を及ぼします。
ラマルー博士は、緑内障がどのように読書・運転・歩行や外出に影響を与えるのかを科学的に調査しています。特に、高齢者の転倒リスクの増加について詳細に研究を行い、医師やリハビリの専門家が連携して転倒を防ぐ方法を提案しています。
病気の進行に応じて、治療の強さを調整したり、患者に合った生活指導を行うことの重要性が強調されました。
今後の展望
今回紹介された4つの講演は、目の病気に対する理解を深め、患者の生活を支える研究や治療がどこまで進んでいるかを示すものです。再生医療や遺伝子研究、生活支援の視点を含め、これからの眼科医療の方向性を示す貴重な内容です。
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注:TRPチャネル:
角膜のTRPチャネルとは?
私たちの角膜(黒目の表面)には、「TRPチャネル(トリップチャネル)」という名前のセンサーのようなタンパク質があります。これは、温度・刺激・化学物質などを感知して、神経に情報を伝える働きをしています。
TRPチャネルの役割:
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TRPV1(カプサイシン受容体):トウガラシのような辛いものや熱い刺激に反応します。痛みの感知にも関与します。
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TRPM8:メントールや冷たい空気など、冷たさを感知します。ドライアイの感覚にも関係すると言われています。
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TRPA1:煙や刺激臭のような化学的な刺激に反応します。
なぜ大事なの?
TRPチャネルは、角膜が環境の変化に気づいて守ろうとするための重要な仕組みです。乾燥や刺激を感じた時に涙を出したり、瞬きを促したりする反応にも関係しています。
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