仙台の大学にいたころ、私も放射線を使う動物実験に周3回程従事して学位の研究をしました。また大学の放射線業務従事者や原発従業員の白内障検診に医師として手を貸したこともありました。然し、細隙灯顕微鏡程度では、中年の患者での判定はファジーで明白な視力低下が存在しないものは正常としておりました。今回は徹照型の顕微鏡で調べたという事ですが、これなら高い検出率となることでしょう。しかし、この研究結果は放射線非従事者と比べてどうなのか?が気になりました。今回は、「医療放射線業務従事者の放射線白内障の実態」、日眼会誌:129:543-550 永田竜朗他(産業医大)を平易に紹介します。
はじめに(緒言の要約)
私たちの目の中にある水晶体は、カメラで言えばレンズのような役割を果たす大切な部分です。この水晶体は、実は体の中でも放射線にとても敏感な組織のひとつです。
以前は、かなりの量の放射線を浴びないと水晶体にダメージは出ないと考えられていました。ところが、2011年に国際的な放射線防護の機関(ICRP)が「白内障はもっとずっと低い放射線でも起こりうる」と従来はコントロールが5から8Gyグレイだったものを 0.5Gyに変更した新しい基準を発表しました。これを受けて、日本でも2021年に法律が改正され、医療現場で放射線を扱う人たちの目を守るための基準が大幅に厳しくなりました。
これまで放射線の健康診断では、目の検査はペンライトでの簡単なチェックが主流でした。しかし、これでは初期の微細な変化は見逃されやすいです。そこで今回、大学病院で働く医療スタッフを対象に、より詳しい白内障の検診を行ったという報告がありました。
研究の概要
■ 目的
放射線による白内障は、今では非常に少ない被ばくでも起こる可能性があることが分かってきました。それにもかかわらず、医療現場で放射線を使うスタッフの目に、実際にどれほどの影響が出ているのかは、ほとんど調べられてきませんでした。そこで、産業医科大学では大学や病院で働く390人を対象に、詳しい目の検査を行い、その実態を調査しました。
■ 方法
目の水晶体を詳しく見ることができる「徹照カメラ」という機器を使い、暗い部屋で瞳孔を広げずに検査をしました。そして、福島第一原発の作業員の調査で使われた方法に基づいて、眼科の専門医が白内障の有無を判定しました。
■ 結果
検査の対象となった360人のうち、116人(32.2%)に何らかの水晶体の異常が見つかりました。特に、40代以降では異常が見つかる人の割合が急に増えており、50代で約半数、60代では約8割に変化が見られました。
不思議なのは、この人たちの放射線の累積量はいずれも基準値以下だったことです。それでも、水晶体に小さな濁りが見られたという事実は、今後に向けて大きな警鐘を鳴らしているといえるでしょう。
■ 結論
今回の研究では、放射線と白内障との直接の因果関係ははっきりとは証明できなかったものの、放射線を扱う医療従事者では、年齢に比して白内障の所見が多い可能性が示されました。つまり、今の基準でも完全に安全とは言い切れないかもしれない、ということです。
まとめと眼科からの提案
この研究は、医療の現場で放射線に日常的にさらされる人たちの「目の健康」について、私たちがもっと注意を向ける必要があることを示しています。眼科の立場から言えば、定期的な精密検査を取り入れ、水晶体の初期変化を早期に発見することが重要です。
放射線を使う機会のある技師さんや医師の方、そしてそのご家族の方にも、「目を守る」という視点でこの話題を共有していただければと思います。
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