白内障

[No.3906] 医学における査読とAIの役割;JAMA 記事から

医学における査読とAIの役割

私は日々、当院のブログ記事を書く際にAIを活用しています。テーマを整理したり、文章の骨子を作ったりする作業でAIは大いに役立ち、文章を仕上げる上での“相棒”のような存在になっています。もちろん最終的な表現や内容の判断は私自身が行っていますが、AIが効率を高めてくれていることは間違いありません。

実は今回のこの記事も、JAMA(Journal of the American Medical Association)に2025年8月28日付で掲載された最新の編集言「査読における人工知能(AI)」を参考にしています。JAMAは医学の世界で最も権威ある総合誌のひとつであり、研究者や臨床医にとって必ず目を通すべき存在です。その編集部がAIと査読の関係を真正面から論じたことは、私たち臨床医や研究者にとって大変示唆に富む内容といえるでしょう。

査読制度とその限界

医学研究は、発表される前に「査読」というプロセスを経て専門家の評価を受けます。これにより論文の信頼性が担保され、私たちが日常診療で用いるエビデンスの質が保証されています。

しかし、投稿論文数の急増に対して査読者は不足し、査読疲れや辞退が増加しています。その結果、研究の公表が遅れたり、逆に質の低い研究が通過してしまうといった問題が起こり得ます。

AIによる査読支援の可能性

ここで期待されるのがAIです。大規模言語モデル(LLM)はテキストを素早く要約し、主要なポイントを抽出し、論文が必要な報告基準を満たしているかを自動的にチェックできます。まさに査読者をサポートする“コパイロット副操縦士”のような役割です。

例えば、AIは原稿の抄録と本文の整合性を確認したり、図表の記載に不自然な点がないかを検出したりできます。これは、自動車の「運転支援技術」に例えられ、最終的なハンドル操作や判断は人間が担うものの、安全で効率的な運転を助ける存在に近いといえます。

直面する課題

一方で課題も少なくありません。AIは虚構の情報(幻覚)を生成することがあり、人間の確認作業がかえって増える危険性があります。また、機密性の高い未公開論文を外部のAIに入力することは、情報漏洩や不適切利用のリスクを伴います。

さらに、AIに依存することで査読者の批判的思考が弱まり、査読の価値である「新しい視点」や「鋭い観察」が失われる恐れも指摘されています。

人間とAIの協働へ

JAMAの編集部は「AIは査読を補助するツールであり、最終判断と責任は人間にある」と明確に述べています。AIが効率的に事務的なチェックを行い、人間が新規性や臨床的意義を見極める。このハイブリッド査読こそが今後の標準的な形になるだろうと考えられています。

眼科臨床の現場から

私たち眼科医もすでにAIを利用しています。眼底写真の自動解析やOCT画像の診断支援など、AIは診療の効率化に役立っています。しかし、患者さんへの説明や治療方針の決定は、最終的に医師の責任で行うものです。論文査読におけるAIの役割も、まさにこれと同じ構図だといえるでしょう。

AIによって研究の質が高まれば、診療現場に届くエビデンスもより確かなものとなり、患者さんに提供できる医療の質も向上します。AI査読の進展は、決して遠い世界の話ではなく、日々の診療と直結しているテーマなのです。


📖 参考文献:

Perlis RH, Christakis DA, Bressler NM. Editorial: Artificial Intelligence in Peer Review. JAMA. Published online August 28, 2025. doi:10.1001/jama.2025.15827

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