庭の銀杏 ― 秋の香りと実りの知恵
秋が深まると、庭の銀杏の木が一面の黄金色に染まります。扇形の葉は日差しを受けて輝き、足元には丸く黄色い実が落ち始めます。枝に実るときの銀杏は淡い黄緑色ですが、地上に落ちると果肉が柔らかくなり、まもなく発酵して独特の悪臭を放つようになります。それでも、丁寧に処理をすれば、あの美しい翡翠(エメラルド)色の食用銀杏を楽しむことができます。ここでは、その安全な採取と調理の手順を紹介します。
① 落ちた銀杏の拾い方と果肉の除去
まずは早めの収穫が肝心です。放置すると果肉が腐敗して臭いが強まり、虫が集まります。手袋とマスクを着用し、ビニール袋を二重にして拾いましょう。果肉部分にはウルシ科植物に似た成分が含まれ、かぶれを起こすことがあります。素手で触るのは禁物です。
拾った実は果肉と殻を分けます。新聞紙の上で果肉を軽く踏みつぶし、水を張ったバケツに一晩つけると果肉が柔らかくなります。その後、手袋をしたまま洗い流し、白っぽい硬い殻(核果)だけを残します。
これが乾燥用の「殻付き銀杏」です。
② 銀杏の乾燥と保存
洗浄後の銀杏は、風通しの良い日陰で数日間しっかり乾燥させます。湿気が残るとカビの原因になります。完全に乾いたら紙袋やネットに入れ、冷暗所に保存します。密閉容器は湿気がこもるため避けましょう。適切に乾燥させた銀杏は、数か月の保存が可能です。
③ 可食部の取り出しと調理法
食べる際は、殻を軽く割って中の種を取り出します。この中身が、淡い黄緑色をした生の銀杏です。ここから加熱することで、あの透き通ったエメラルド色の輝きを放ちます。
調理法は次のとおりです。
・電子レンジ法:殻付きのまま封筒に数粒入れ、30秒ほど温めると「ポンッ」と音を立てて割れます。
・フライパン法:殻付きのまま弱火で転がしながら炒ると、殻がはじけて中から艶やかな緑の実が現れます。
塩を軽く振れば、ほろ苦さと香ばしさが引き立ちます。炒った直後の銀杏は半透明の翡翠色ですが、時間が経つとやや黄色みを帯びます。これもまた、秋の移ろいを感じさせる自然の色変化です。
④ 食べ過ぎに注意
銀杏は滋味深い味わいながら、食べ過ぎると中毒を起こすことがあります。原因は「ギンコトキシン」という成分で、小児では嘔吐やけいれんを起こす例もあります。5歳未満の子どもには食べさせない方が安全です。大人でも1日10粒程度を目安にしましょう。
炒った銀杏は冷めると硬くなりますが、軽く温め直すと再び柔らかくなります。
⑤ 匂いと地域のマナー
落ちた実をそのままにしておくと、悪臭の原因になるだけでなく、滑って転ぶ危険もあります。掃除を怠ると近隣トラブルにもなりかねません。落下期には朝夕の清掃を日課にするのがよいでしょう。
また、公園や街路樹の銀杏は自治体によって「採取禁止」としていることもあるため、公共の場所では必ず掲示を確認してから拾うようにします。
終わりに ― 秋を五感で味わう
銀杏の木は、葉の黄金、果実の黄、そして食卓に上る実の翡翠色と、ひとつの木の中に三つの秋を宿しています。
手間をかけてこそ味わえるその美しさと香りは、自然の恵みを受け取る喜びそのもの。
今年もまた、手を汚しながら銀杏を拾い、炒りたての輝く実を眺める時間を楽しみたいと思います。
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