■ 1. 量子コンピュータとは何か ― これまでのコンピュータとの違い
コンピュータの歴史は、「いかに多くの計算を、より速く、正確に行うか」という挑戦の連続でした。現在私たちが使っているノートPCやスマートフォンは 古典コンピュータ(クラシックコンピュータ) と呼ばれ、情報を 0 か 1 の二択 で扱う「ビット」を基本単位としています。
一方、量子コンピュータは 量子力学 という物理学のルールを利用することで、従来とは根本的に異なる計算の仕組みを実現します。ここが“革新”と言われるゆえんです。
● 量子ビット(qubit)という新しい情報単位
量子コンピュータの核は 量子ビット(キュービット) です。
量子ビットは、電子や光子といった量子状態を利用して作られ、
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0 と 1 を同時にとる(重ね合わせ)
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複数の量子ビットが互いに影響し合って結びつく(量子もつれ)
という、日常感覚とは大きく異なる性質を持っています。
これにより、例えば 10 個の量子ビットは
2¹⁰(1024)通りの状態の計算を同時並行で行える
という圧倒的な並列性をもちます。
この「一度に多数の可能性を探索する力」が、古典コンピュータでは極めて難しい問題で威力を発揮します。
● 何に役立つのか?
量子コンピュータが期待されている分野は、次のような“古典コンピュータの苦手領域”です。
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新薬設計や材料科学(分子シミュレーション)
→ 分子の電子状態計算は量子力学そのもの。量子計算との相性が良い -
暗号解読・新しい暗号方式の設計
→ 現在のRSA暗号を破る理論的可能性あり -
膨大な組み合わせ探索(交通・物流・金融など)
→ 一瞬で数十億通りを評価し最適解を探せる可能性 -
機械学習(AI)の高速化
まだ“万能で桁違いの性能”に到達したわけではありませんが、
「古典では太刀打ちできない問題を突破する力」 が見込まれている点こそ、量子コンピュータが「次の計算革命」と呼ばれる理由です。
■ 2. 日本は量子コンピュータで本当に強いのか?
結論から言えば、
日本は世界のトップグループの一角であり、特に強い分野が複数ある
と言えます。
以下にわかりやすい具体例を示します。
① 世界初の「超伝導量子ビット」を作ったのは日本(NEC)
1999年、NECの中村泰信氏らが
世界で初めて「超伝導量子ビットが量子として働くこと」を実証
しました。これは現在 Google や IBM が採用している量子方式の源流で、世界の研究者が「ここから超伝導量子コンピュータが始まった」と認める歴史的成果です。
この基礎研究があったからこそ、今日の量子計算の主流である“超伝導方式”がここまで発展しています。
② 理化学研究所(RQC)+富士通 ― 日本発の実機開発が急伸
理研(RQC)は日本の量子研究の中心で、富士通と共同で
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2023年:64量子ビット超伝導量子コンピュータ
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2025年:256量子ビット機を公開(世界トップ級の規模)
と実用段階に踏み込んだ開発をリードしています。
量子チップ設計、冷却装置、制御技術まで日本発の技術が使われ、「国産量子コンピュータ」と呼べるレベルに達しつつあります。
③ 大阪大学では“ほぼオール国産”の量子コンピュータをクラウド公開
大阪大学の量子情報・量子生命研究センター(QIQB)は、
理研製量子チップを搭載した国産量子コンピュータをクラウド公開。
研究者や企業が自由に実行できる環境は、世界的に見ても極めて先進的な取り組みです。
④ 富岳と量子をつなぐ ― 日本独自の“ハイブリッド計算”
量子コンピュータ単独ではまだ不完全ですが、日本は世界に先駆けて
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スーパーコンピュータ「富岳」
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IBMの156量子ビット機
を 同じキャンパスに設置し、両者を連携させたハイブリッド計算 をスタートしました。
この「量子+古典の協働」は、将来の実用化に極めて重要な領域で、日本はその実験を最も早く進めている国のひとつです。
⑤ 量子通信では“世界トップレベル”の東芝
量子コンピュータと並ぶ「量子技術」の重要分野に“量子暗号”があります。
特に東芝は、20年以上前から量子鍵配送(QKD)の開発を進め、
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100km超の長距離伝送
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高速で安定した鍵生成
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実用化レベルの装置販売
を世界に先駆けて実現しています。
量子通信の分野では、日本は世界トップクラスです。
⑥ 量子ソフトウェアでは“QunaSys(クナシス)”が国際的評価
日本のスタートアップ QunaSys は、量子化学や材料探索向けのソフトウェアで国際的に高い評価を受けています。
欧米の量子ハード企業・化学企業との共同研究が多く、日本発の“量子応用ソフト企業”として存在感を増しています。
■ 3. まとめ ― 日本は「確かな強みをもつ量子大国」
量子コンピュータは、
分子シミュレーション・暗号・最適化など人類が長く苦しんできた難問を突破する可能性を秘めた技術
です。
日本は、
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超伝導量子ビットの源流を作った
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理研・富士通を中心に国産量子コンピュータが急伸
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富岳との連携で世界的にユニークな環境
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東芝の量子暗号は世界トップクラス
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ソフトウェア企業も育っている
と、世界の中で確かな存在感と強い実力をもつ“量子先進国”と言えます。
量子技術はまだ途上ですが、日本は基礎研究・実装・応用のすべてで重要な位置を占めており、今後の「計算革命」を支える大きな柱になることが期待されています。



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