白内障

[No.572] “手術動画”無断で外部提供か 病院側「再発防止に努めたい」:記事紹介

清澤のコメント:これは眼科業界にとっても患者にとっても、不快なニュースです。個人情報保護管理は年々厳しくなっています。学会で個人が同定できない手術動画を見せて「困難症例の手術ではどのような注意を払って危険を克服しているか?」などの講演を聞くことは、現状ではまだ稀ではありません。今後、手術動画供覧に関しても(当該動画は、匿名処理の上での学術目的の供覧に限り可能といった)患者同意が必要であるなどの厳格なルールが更にできてゆくことでしょう。

NHK記事の概要」:

2022年514 2005

全国の総合病院などに勤務する眼科医5人が、白内障の手術の動画を患者や勤務先に無断で医療機器メーカーに繰り返し提供し、現金を受け取っていたことがNHKの取材で明らかになりました。

手術の動画は個人情報保護法に基づいて、病院が適切に管理することが求められていて、各病院は、医師を指導するなどしたうえで「管理が不適切だった。再発防止に努めたい」などとしています。

関係者への取材などによりますと、全国の眼科医5人は、アメリカの医療機器メーカーの日本法人、「スター・ジャパン」との間で、この会社が製造するレンズを使用した白内障手術の動画を作成する契約を結んだ上で、その動画を繰り返し提供し、去年までの3年間に現金40万円から105万円を受け取っていたということです。

手術の動画は、映像や音声などから患者の特定につながるおそれがあり、国の個人情報保護委員会によりますと、医療機関は漏えいなどを防ぐために個人情報保護法に基づいて、適切な管理や従業員の監督を行うよう求められています。

しかし、5人の医師が勤務する病院は、医師が動画を提供し、現金を受け取っていたことを把握していなかったということです。NHKの取材に対し、5つの病院は医師を指導するなどしたうえで、「管理が不適切だった。再発防止に努めたい」などとコメントしています。

5人の医師は患者からも同意を取っていなかったということで、このうち1人は、「動画に個人を特定するデータは含まれていなかったが、病院から指導、注意を受け、大変反省している」と話しています。

スター・ジャパンは、NHKの取材に対しメールで回答し、これらの契約について、「眼内レンズを使用した外科技術の教材を作成するプログラムを行っていた」としたうえで、「コンプライアンス上、問題があった可能性があり、関係当局に報告するとともに外部の法律事務所に委託し調査を実施している。事態を重く受け止め、医療従事者や患者、ご家族にご心配とご迷惑をおかけしていることをおわびします。プログラムは調査中のため中止しております」などとしています。

専門家「データ取り扱い 目に見えるルール作りが必要」

個人情報保護法に詳しい中央大学の石井夏生利教授は、「患者の承諾を得ることなく動画を提供する行為について、医師の裁量が認められるべきではない。病院の情報管理の体制が問われる問題だ。今回のような事案の再発防止のために、それぞれの病院は個人情報を含めた病院のデータの取り扱いについて目に見えるルール作りが必要になると思う」と指摘しました。

そのうえで、医師がメーカーから現金を受け取っていたことについては、「患者が手術の動画を撮影することに同意していたとしても、医師がそれを第三者に提供して金銭を得ることは予想外で患者の承諾が得られないことは十分考えられる。プライバシーの問題だけでなく医師の倫理にも関わる問題だ」と述べました。

手術の動画を個人情報保護法のルールを順守したうえで、医療の発展に役立てようという動きも出ています。
そこでは、集めた動画はすべて、こうした映り込みを排除する「匿名加工」と呼ばれる編集を行い、患者の氏名や病院名などもデータから削除しているということです。さらに、すべての患者にプロジェクトの目的を個別に説明し、事前に同意を得ているということです。これまでに収集した動画は3000件を超えるということで、▽AIに大量の動画のデータを学習させ、手術を支援するシステムの開発に役立てたり、▽教育用ビデオの制作に活用したりする取り組みが進んでいるということです。

国立がん研究センター東病院の伊藤雅昭副院長は「内視鏡の手術動画は、患者の顔や名前が写っているわけではないので厳密には個人情報には該当しない可能性もあるが、センターの倫理委員会や弁護士などと議論する中で、研究や産業に生かすためには患者一人一人に丁寧に説明し同意を取ることが必要だと判断した」と述べました。
そのうえで、「手術の動画はまだ歴史が浅く、取り扱いについての議論が成熟していないのが現実だと思う。医療のデータベース化の取り組みは外科だけでなくほかの分野でも同時進行で進んでいるので、国としてある程度、同じ方向性を持ってルールの整備を進めていくべきではないか」と指摘しました。

個人情報保護法とは

個人情報保護法は、氏名や生年月日、運転免許証番号など特定の個人を識別することができる情報を「個人情報」と定めています。
事業者は、取得した「個人情報」を第三者に提供する際には、原則として本人の同意が必要です。中でも医療機関の診療記録は、「要配慮個人情報」として、特に厳格な取り扱いが求められます。
手術の動画は映像や音声などから患者を特定できる情報が含まれている可能性があり、国の個人情報保護委員会によりますと、医療機関は漏えいなどを防ぐためにこの法律に基づいて、適切な管理や従業員の監督を行うことが求められています。
個人情報保護法は、ビッグデータなどの活用が進む中、▽個人情報の有効利用と▽個人の権利や利益の保護のバランスを図るための法律で、社会の変化を踏まえ、3年ごとに内容を見直す規定が盛り込まれています。

(図はこの事件には無関係な成書の表紙です)

 

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