抜けた睫毛が下瞼マイボーム腺開口部にはまり込み、角膜糜爛を作る病態について
「抜け落ちた睫毛がマイボーム腺開口部に立って刺さり、逆睫毛のように角膜を擦って糜爛を起こす状態」に陥った患者さんを診ました。実際にはこのような状態を私が見るのは初めてではなく、時に起きることのある状態と考えます。それまら、見た事があるという眼科医は多いのではないでしょうか?
- そのような状態の医学的記載について
この現象は文献上稀ではありますが、報告されています。
- 通常の睫毛内反や睫毛乱生とは異なり、外れた睫毛(loose or dislodged eyelash)がマイボーム腺開口部(meibomian gland orifice)に入り込み、立ち上がって角膜を刺激するというものです。
- 英語文献では明確な病名は付いていないことが多いですが、現象の説明としては:
“A misdirected or dislodged eyelash lodged vertically in the meibomian gland orifice causing corneal irritation or erosion.”といった記述になります。
稀ではあるものの、角膜上皮障害(punctate keratitis や corneal erosion角膜びらん)の原因として報告されたことがあります。
- 英語での表現
定まった疾患名ではありませんが、臨床的には以下のように表現可能です:
- “Ectopic eyelash lodged in the meibomian gland orifice”
- “Inverted eyelash causing corneal erosion”
- “Vertically oriented eyelash mimicking trichiasis”
また、「咲か睫毛」のように見えるという記載は、英語では比喩的に:
“An upwardly protruding lash mimicking an accessory cilia“や
“A vertically embedded eyelash simulating a second row of lashes (distichiasis-like appearance)“
といった形で表現することができます。
- 処置と注意点
このようなケースでは、以下の点に留意して対応することが重要です。
(1) 診断時の注意点
- 裸眼またはスリットランプにて、角膜上の擦過傷とその近辺の**異物(立ち上がった睫毛)**の存在を丁寧に観察。
- 繰り返す角膜上皮障害の原因としてマイボーム腺開口部の異常や異物を疑う。
- フルオレセイン染色で角膜の傷と、擦過の方向を確認。
(2) 処置
- 先の細い鑷子を用いて異物化した睫毛を慎重に除去。
- 局所麻酔(オキシブプロカイン点眼など)を使用して痛みを軽減。
- 睫毛根元のマイボーム腺開口部を強く刺激・押圧しないように注意(感染や炎症誘発の恐れ)。
- 必要があれば抗菌薬点眼や角膜保護のためのヒアルロン酸点眼を併用。
(3) 再発予防・フォローアップ
- 繰り返すようであれば、睫毛の向きやマイボーム腺開口部の形状に異常がないかを評価。
- マイボーム腺機能不全(MGD)や眼瞼縁炎が背景にある場合は、アイシャンプーや温罨法の指導も考慮。
補足情報:
このような「異所性の睫毛」が角膜に障害を与える状態は、
- “pseudotrichiasis”(偽睫毛乱生)や“foreign body trichiasis”異物睫毛乱生という形で報告されることもあります。
コメント