AIを使った新しい緑内障リスク評価 ― OCTがない場所でも役立つ可能性
緑内障は日本でも失明原因の上位に入る病気です。特に「開放隅角緑内障(POAG)」は、初期には自覚症状が少なく、気がついたときには視野が欠けてしまうことが多いのが特徴です。そのため、誰が将来緑内障に進行しやすいのかを予測し、早めに経過観察や治療を始めることがとても大切です。
従来から、緑内障のリスク評価には眼圧、年齢、角膜の厚み、視野検査、そして視神経の形(乳頭陥凹比:カップディスク比)などが用いられてきました。しかし、この「視神経の形の評価」は医師の経験や主観に依存しやすく、判定にばらつきが生じることが課題でした。
AIが登場 ― 写真から神経線維層の厚みを予測
今回、米国のJAMA Ophthalmology誌(2025年6月26日公開)に掲載された研究では、人工知能(AI)を使って「眼底写真」から「網膜神経線維層(RNFL)の厚み」を推定する方法が検討されました。
RNFLは視神経をつくる神経の「電線の皮」に相当する部分で、この厚みが薄くなることは緑内障の進行を意味します。本来はOCTという精密機械で測定するのが標準ですが、AIを使えば眼底写真だけから推定できる、というのが今回の研究の大きなポイントです。
研究の内容と結果
研究の対象は「眼圧は高いが緑内障ではない」人たちでした。1,600人以上、3,000眼以上のデータを解析したところ、AIが写真から予測したRNFLの厚みが薄い人ほど、将来緑内障に進行するリスクが高いことが分かりました。
具体的には、RNFLが10µm薄いと緑内障になるリスクは約1.8倍に増加。さらに、経過観察中にRNFLが速く減っていく人は、進行する危険が6倍以上に上がることが示されました。
この研究の意味
この成果により、OCTが置かれていない医療現場や、設備が限られた地域でも、通常の眼底写真さえあればAIによって緑内障リスクをある程度予測できる可能性が広がりました。つまり、世界中でより多くの人が早い段階でリスクを知ることができるようになるのです。
当院での現状
一方で、私の診療所(自由が丘清澤眼科)では、ほとんどの患者さんに対してOCT検査を行うことができます。OCTはAIによる推定ではなく、直接RNFLの厚みを測定するため、より正確な情報を得られます。そのため、当院では「無理にAIを使って写真から厚みを予測する必要はない」というのが実際のところです。
ただし、この研究は「AIが眼底写真からRNFLを推定し、それが臨床的に意味を持つ」ことを示した重要な成果です。将来的には、健康診断や地域検診などでAI解析が導入されれば、より多くの人が緑内障の早期発見につながるかもしれません。
まとめ
-
緑内障は早期発見が重要な病気。
-
AIを使えば眼底写真から神経線維層の厚みを推定し、リスク評価が可能。
-
OCTがない環境では大きな助けになるが、当院ではOCTによる直接測定が可能。
-
今後はAIと従来の検査をうまく組み合わせることで、より正確で広範囲な緑内障予防が期待できる。
📖 出典:
Liu JC, Jammal AA, Scherer R, et al. Predicting Retinal Nerve Fiber Layer Thickness From Ocular Hypertension Treatment Study Optic Disc Photographs. JAMA Ophthalmol. 2025;143(8):652-659. doi:10.1001/jamaophthalmol.2025.1740
コメント