睡眠時無呼吸症候群と網膜微小血管
―OCT血管造影で見えてきた新しい関連―
緑内障の患者さんを診察していると、視野欠損の進行が早い症例の中に睡眠時無呼吸症候群(OSAS: obstructive sleep apnea syndrome)を持つ患者が含まれていることが知られるようになってきました。睡眠中に呼吸が止まるこの病気では、体の酸素状態が不安定になるため、視神経や網膜の血流に影響する可能性があると考えられています。最近では、眼の検査から全身疾患を推測する「オキュロミクス」という概念も広まり、OCT血管造影(OCT-A)で睡眠時無呼吸の影響を検出できないかという研究が行われています。今回はその一例であるORNET研究の報告を紹介します。
背景
閉塞性睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に上気道が閉塞することで呼吸停止を繰り返す病気で、高血圧や心血管疾患と関連することが知られています。眼科領域では、緑内障、虚血性視神経症、網膜血管障害などとの関連が指摘されてきました。しかし、睡眠時無呼吸症候群が網膜の微小血管にどのような影響を与えるのかについては、まだ十分に明らかになっていませんでした。そこで研究者たちは、OCT血管造影を用いて網膜の微小循環を詳しく調べることにしました。
目的
この研究の目的は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の患者における網膜微小血管の変化をOCT血管造影で評価し、睡眠時無呼吸のない人と比較することでした。また、睡眠時無呼吸の重症度や、CPAP(持続陽圧呼吸療法)治療による変化も調べることが目的とされました。
方法
研究は前向き単一施設コホート研究として行われました。対象は合計162人(324眼)で、睡眠時無呼吸症候群の患者82人と、健康対照80人が比較されました。
OCT血管造影を用いて以下の項目が評価されました。
・網膜の血管密度(VD)
・灌流密度(PD)
・表層毛細血管叢(SCP)
・深部毛細血管叢(DCP)
・中心窩無血管帯(FAZ)
・乳頭周囲の血流
さらに、睡眠時無呼吸患者のうち63人はCPAP療法を受け、3~6か月および18~24か月の追跡検査が行われました。解析では年齢、性別、眼軸長、高血圧、糖尿病、喫煙などの影響を統計的に調整しています。
結果
研究の結果、睡眠時無呼吸症候群の患者では、網膜の深部毛細血管叢(DCP)で血管密度と灌流密度が有意に低下していることが分かりました。
一方で、
・表層毛細血管叢(SCP)
・中心窩無血管帯(FAZ)
・乳頭周囲血流
については、対照群と明確な差は認められませんでした。
また、CPAP療法を開始した患者を追跡したところ、治療後も網膜の微小血管パラメータは大きく改善するわけではなく、ほぼ同様の状態が続いていました。
結論
この研究は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群が網膜の深部毛細血管叢の微小血管変化と関連している可能性を示しました。OCT血管造影で観察される微小血管変化は、睡眠時無呼吸の影響を反映するバイオマーカーとなる可能性があります。
出典
Germanese C, Georges M, Bonniaud P, et al.
Characterization of Retinal Microvascular Changes in Obstructive Sleep Apnea Syndrome Using Optical Coherence Tomography Angiography: Data From the ORNET Study.
2026年2月1日掲載。
眼科医 清澤のコメント
緑内障患者の中には、眼圧がそれほど高くないにもかかわらず視野が進行する症例があります。その背景として最近注目されているのが睡眠時無呼吸症候群です。睡眠中の低酸素や血圧変動が視神経循環に影響する可能性があるからです。今回の研究は、OCT血管造影で深部網膜の微小血管低下が観察されることを示しており、将来、眼科検査から睡眠時無呼吸の可能性を推測する手がかりになるかもしれません。視野障害の進行が速い緑内障患者では、睡眠時無呼吸症候群の評価を考慮することが重要だと私は考えています。しかし、現在使っているOCT機材のプリントアウトで上記の特徴を読み取るのは容易ではなさそうです。



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