神経眼科

[No.1824] 眼窩外傷に伴う上斜筋麻痺とは(外傷性Brown症候群)

清澤のコメント:以前私は滑車神経麻痺について一般的な解説をし、その中では滑車神経麻痺には多くの先天性滑車神経麻痺と外傷性滑車神経麻痺があることを説明しました。病変が片側の場合に、その診断には特別な道具のいらないビルショフスキー3ステップテストが有効ですが、測定が可能ならばヘスチャートは大変有効です。また、眼底カメラの写真で左右の眼底の回旋角度に差があるという特徴もあります。このほかに、先天性滑車神経麻痺は両側性であることも多く、中年になってから顕在化することも多いことは大事なポイントです。

Brown Syndrome

第4神経麻痺 (滑車神経麻痺)とは

 さて、今日は外傷性滑車神経麻痺の中でも、頭蓋全体に対する打撲で滑車神経が進展されて起きるタイプの滑車神経麻痺(上斜筋麻痺)ではなくて、眼窩の上内側に存在する滑車付近に直接の外力を受けて発生するタイプの滑車神経麻痺(上斜筋麻痺)についてお話してみます。

さて、上斜筋が緩むべき時に上斜筋の滑車部分に癒着などが有って、十分に緩むことができないと患側の目は下に引き下げる力が弱まり、上にずれることになります。この状態のことをブラウン症候群と呼びます。今回の話題では収縮障害なので通常のブラウン症候群とは多少症状が違います(本節の末尾参照*1)。

 今回、問題になる外傷性滑車神経麻痺では、むしろ上斜筋の収縮力低下が症状の前面に出ますから、ヘスチャートでは上斜筋作用方向である内下転が弱まることが考えられます。①上斜筋に滑車神経が入る付近での神経への損傷、②上斜筋筋腹への損傷、③上斜筋の滑車に対する損傷などが考えられるでしょう。図は、右の眼窩を上から見た図で、外傷は滑車神経というよりも上斜筋ないし滑車をおそらく傷害しています。これはNapの分類ではクラス7に分類され「クラス 7: 上腹斜筋への直接的な外傷によって引き起こされ、麻痺と弛緩の制限が生じます (ブラウン症候群)。これは「犬歯症候群」としても知られています。

 相当な頻度で自然回復が期待されますから、最初は経過観察としてよいでしょう。もし手術が必要という事になった場合には拮抗する同側の下斜筋を緩める手術なども考えられる場合があるようです。NIH Starpearls

 わたくしも共著者である藤野先生の教科書のBrown症候群を開いてみます。

*1:Brown 症候群 Brown syndrome
■概説■
● 別名,上斜筋腱症候群。上斜筋腱,腱鞘の異常のため,内上転制限(上転,外上転は可能)を呈する。下斜筋麻痺に似る。
● 先天性(35%)のケースは,上斜筋腱が短いもの,また腱付着部異常のものがある。後天性(65%)のケースは炎症(外傷,特発性眼窩炎症,前頭洞炎,関節リウマチ等)による。10% は両眼性。
外傷性滑車部障害でBrowon 症候群に同側の上斜筋麻痺を合併したものをcanine tooth syndrome という。内転時に上下転障害を呈する。犬に咬まれて発症した症例が多かったことから名づけられた。
● 上斜筋腱鞘の肥厚がみられ,forced-duction test 陽性。
● 内転時に瞼裂開大。
● 後天性のものはNSAIDs で効果がみられることがある。先天性のものは上斜筋腱延長術など。——-としてありました。

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