神経眼科

[No.195]  小脳性の眼球運動障害 (矩形波眼球運動 眼ジスメトリア 眼球粗動 オプソクロヌス Bruns眼振):再訪

小脳性眼球運動障害

小脳性眼球運動障害の概念
小脳疾患に見られる主な眼の兆候には矩形波眼球運動square wave jerks、眼ディスメトリアocular dysmetria、眼球粗動ocular flutter、オプソクロヌスopsoclonus、および眼振nystagmusmusなどが含まれます。このうち小脳性眼振には水平性注視誘発眼振と反跳性眼振rebound nystagmusmusが含まれています。

矩形波眼球運動

小脳性眼球運動障害でみられる矩形波眼球運動square wave jerksは非律動性で、固視の破綻に再度の固視確立が続く単一の眼球運動です。水平方向に振幅0.5°から3°で再固視までの潜時が200ミリ秒程度の微細な動きを繰り返す矩形波眼球運動square wave jerksと、振幅がから30°で再固視までの潜時が50から150ミリ秒であり、肉眼でも容易に識別できるマクロスクエアジャークmacro-squqre jerkとがあります。いずれも眼球電図EOG electro-oculogramによる眼球運動の記録線のグラフが方形波をなすのでこのように名づけられています。(EOGの水平方向の波形は、西洋の城壁の上面の様です。)

眼ディスメトリア (図の2段目)


眼ディスメトリアは小脳疾患で指差しが行き過ぎてしまうのと同じことが小脳疾患の視線の動きにも現れたものです。随意的な視線の変更に伴って常に行き過ぎが見られるものです。小脳疾患では側方注視時の眼振が多いのでディスメトリアは第一眼位に戻る再固視では最も識別し易く、その際には固視が安定するまで様々な視線の振動が続いて見られます。

眼球粗動 (図の3段目)

眼球粗動ocular flutterは、自発性で短い間隔を持っておきる共動性水平性の微小振動で、先に説明した小脳性眼球運動障害のひとつである眼ディスメトリアに似たものですが、特に第一眼位を固視しているときに見られるものに対する名前です。

オプソクロヌス
オプソクロヌスopsoclonusは小脳性の眼球運動異常に含まれる早くて不随意な水平や垂直そして斜めの成分を含む無秩序な眼球運動であり、睡眠中には消失するものです。乳児の神経芽細胞腫において見られることが知られていて、其の場合この異常眼球運動は小脳性ですが其の場合でも小脳への転移は伴っては居らず、免疫による小脳細胞の変性によります。感染性の脳症や成人の内臓の癌の遠隔効果でこのオプソクロヌスが見られる場合もあります。

眼振(nystagmus
眼振にはまず小脳に関連した注視眼振があげられます。しかし、この注視眼振の原因で多いのは抗痙攣剤と沈静剤の投与に伴うものです。次に、注視麻痺性眼振も小脳疾患で見られます。これは毎秒1から2回と遅い振動で、振幅は大きく、注視を維持する機構の麻痺によるものです。

以前、後輩を励まして、この眼球運動Bruns眼振)を報告する一例報告を仕立てたことがあります。(細田直子、清澤源弘、穂刈充彦、世古裕子、成相直:Bruns眼振を示した小脳血管腫の1例. 神経眼科17:300-305, 2001、いつの間にか20年も前になりました)現在までの眼球運動の研究者の世界での知識の集積には、著しいものがあって、現在ではこの程度の考察ではおそらく新たな発表には値しないでしょう。)このほかに急速相が第一眼位に向かう眼振は反跳眼振rebound nysTAGSmusと呼ばれ、これも小脳病変に特有なものです。

眼ミオローヌス:眼ミオローヌスは垂直性の振り子様の眼振で頻度は1分に100から150回です。顔面、口蓋、咽頭などの収縮を伴います。赤核、同側の下オリーブ核、反対側の小脳の歯状核のなすミオローヌス3角と呼ばれる部分の中に病変があります。

中枢性上下斜視skew deviation
脳幹や小脳の疾患では中枢性の上下斜視を見ることがあり、これらは核間麻痺や注視誘発垂直性眼振に合併することがあります。しかし、中枢性上下斜視は臨床的には病巣の特定への意義は少ないものです。

診断
眼球運動の特徴から上記の各病態を疑う場合には、画像診断ともつき合わせて診断すると良いでしょう。

治療法と予後
原疾患に対する治療を進めるのが基本です。其の予後は原疾患に依存します。病態さてさて、この項目は書き砕くつもりでも、結構難しい言葉の羅列になってしまいました。しかし、これ以上に理解しやすい記述はどこを見ても少ないと思います。

この文章の凡その原点は渡邉郁緒先生が翻訳された神経眼科レビューマニュアルですが、この教科書も残念ながら今は絶版になっていて、東京医科歯科大学の神経眼科医グループで再販のための翻訳を申し出たこともあったのですが、米国出版社の都合で結局許可がでなかった思い出があります

今日も最後まで眼を通してくださりありがとうございます。

花の写真は当時、このブログの箸休めに花の写真を提供くださっていた相川さんの撮影してくれたものです。

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