Q:両眼の眼瞼下垂を自覚し、前頭筋で瞼を挙げている気がすると訴える患者さんがいます。瞼裂狭小はなく、複視もなし。症状は夕刻ではなく、むしろ朝強いとの訴えです。鑑別診断には何が考えられるでしょうか?
A: 両側の眼瞼下垂を自覚し、前頭筋を使って額にしわを寄せて瞼を挙げようとするという訴えは、典型的には眼瞼下垂の進行例に見られる表現ですが、「朝に強い」という時間的特徴は重要な手掛かりになります。
鑑別診断に挙がる主な疾患
-
重症筋無力症(Myasthenia Gravis, MG)
-
最も典型的には「夕方や夜にかけて増悪」する易疲労性が特徴ですが、患者によっては睡眠後に一時的に眼瞼挙筋の力が入りにくい(朝に強い下垂)と訴えることもあります。
-
冷却や休息で改善する現象(アイスパックテスト陽性)が診断補助となります。
-
他の眼筋麻痺や複視、全身の筋力低下が伴うかどうかを確認する必要があります。
-
-
眼瞼挙筋腱膜性下垂(腱膜性眼瞼下垂)
-
加齢やコンタクトレンズ長期装用などで眼瞼挙筋腱膜が弛んで瞼が下がるタイプ。
-
起床時に浮腫(眼瞼のむくみ)が強いと、朝に下垂感が強く出ることがあります。
-
日中に軽減する場合があり、見かけ上「朝に強い下垂」となることがあります。
-
-
眼瞼浮腫を伴う内科的疾患
-
甲状腺眼症、腎疾患、心疾患などで眼瞼に浮腫が出ると、朝の起床直後に瞼が重く感じられ、下垂と誤認されることがあります。
-
-
神経疾患由来の下垂(核上性/核性病変など)
-
両側性の動眼神経麻痺や脳幹病変など。多くは他の神経症状を伴うため、単独で「朝だけ強い」症状は少ないですが、鑑別からは外せません。
-
鑑別のポイント
-
症状の変動性(時間帯で変わるか、休息で改善するか)
-
随伴症状(複視、眼球運動障害、全身の筋力低下、易疲労性)
-
眼瞼の浮腫・むくみの有無
-
病歴(コンタクト使用歴、既往疾患、薬剤使用歴)
まとめ
「両側下垂・朝に強い・前頭筋代償あり」という場合、
-
第一に重症筋無力症(ただし典型的変動とは逆パターンもある)、
-
次に腱膜性下垂に朝の浮腫が加わるパターン
を考慮すべきです。
必要に応じてアイスパックテスト、エドロホニウム試験(現在はほぼ使われません)、抗AChR抗体・抗MuSK抗体測定、胸部画像(胸腺腫の鑑別)、および視診・挙筋機能評価が有用です。
コメント