10月10日はスポーツの日であると同時に目の日でした。さて、目の疲れと眼精疲労の違いはよく聞かれる質問です。少し休んでも取れない目の疲れを眼精疲労と言います。VDTは「Visual Display Terminals」の略で、パソコンやスマートフォン、タブレット端末などのディスプレイ機器を使用して行う作業をVDT作業といいます。VDT症候群とはVDTを使った長時間の作業により、目や体、心にまでも影響のでる病気のことで、、別名を「IT眼症」とも呼ばれています。これらはすべてではありませんが「眼精疲労」と被る概念です。以下に私が有力な日本の医学書に記載した眼精疲労の項目を採録します。専門書なので、理屈っぽくなっていますが、今回は(注)を補ってみました。
眼精疲労, asthenopia,ocular strain
「今日の治療指針2020年版(2020年1月1日発行)から、私が担当した「眼精疲労」の項目の採録です。眼精疲労の治療は、各々の原因を決めるまでが勝負。ことに治療に使うべき薬剤も多くはなく、当時から、ややまとめにくい項目ではありました。ドライアイなどを見逃さないように。50分作業をしたら10分休む。その前に使用中の老眼鏡を含む眼鏡は合っていますか?
眼精疲労
asthenopia,ocular strain(注:英語ではアステノピア、オキュラー・ストレインと表現します。ストレインは過緊張の意味です。)
清澤源弘(注、現職:自由が丘 清澤眼科医院・院長(東京目黒区))
治療のポイント
・点眼や眼周囲の温療法により血流改善をはかるなどのセルフケアを試みる.
・セルフケアで改善がみられなければ眼科専門医へコンサルトし,原疾患に対する治療を行う.
◆病態と診断
・眼精疲労は,眼を持続的に使ったとき,眼痛,重圧感,頭重感,視力低下,時には複視などを訴える状態を指す.重篤な場合には悪心・嘔吐をきたすこともある.
・多くは単独あるいは複合的な眼科的要因が考えられるため,眼科専門医へコンサルトする.
A. 調節性眼精疲労
・遠視・乱視の未矯正,近視の過矯正,老視や調節衰弱の近業時における未矯正など,適正な屈折矯正がなされていない場合に起こる.
・過度な調節(注:目のピントを合わせること)を恒常的に強いられることによる.
B. 筋性眼精疲労
・長時間の近業は左右の視線を合わせるための内よせ(輻輳)の負荷が大きいが,間欠性外斜視や輻輳不全があるとその負担はさらに増大し眼精疲労の症状をきたす.また,老人性眼瞼下垂では無意識に前頭筋を使って瞼を挙げ視線を確保しようとする.
・随意筋(注:前頭筋や側頭筋の様に自分で意識して働かせることのできる筋肉)の恒常的緊張により,頭痛や疲労を訴える.
C. 不等像性眼精疲労
・屈折異常に2ジオプトリー以上の左右差があるとき,矯正眼鏡の度数差により網膜像に不等像(注:網膜像の左右の大きさの違い)が発生する.
D. 症候性眼精疲労
・“治療すべき原因疾患がほかにある”という意味で,角結膜炎,ぶどう膜炎,緑内障などの疾患に伴う慢性的刺激感を眼精疲労として訴える場合がある.また,ドライアイは眼の疲れを訴える場合が多い(「ドライアイ」の項参照).
・さらに,眼瞼けいれんは頭頸部ジストニアのなかで眼輪筋の不随意なれん縮が目立つものであり,開瞼維持困難(注:原因を問わず文字通り目を開け続けることが辛いという意味です。眼瞼痙攣などでも見られます。)や眼部不快感,眼痛(注:目の表面から奥の痛みまでを含めた目の痛みという概念)などの不定愁訴(注:訴えははっきりとはしないが明らかに存在する苦しさ)を訴える.
E、神経性眼精疲労
・以上の原因が除外される場合,心因性を想定して神経性眼精疲労と診断する場合がある.(注:悩み事に関連した問題という程度のあいまいな定義です。労働環境の過酷さ、本人の性格の問題と、環境への適応障害などが後ろにはあるのでしょう。)
◆治療方針
対症療法として点眼や眼周囲の血流改善により症状が軽快することがあるが,それぞれの原因に合わせ,専門医により以下の治療が行われる.A~Cの眼精疲労は両眼視が鍵であり,眼科医のもとで適正な矯正(注:適切な眼鏡やコンタクトレンズを合わせること。眼鏡使用を優先させることが多いが、場合により、コンタクトレンズの方が負担が少ない場合もある。)を受けることが重要である.
A. 調節性眼精疲労
作業距離に応じた適正な屈折矯正(注:老眼鏡の作成という意味)を行う.眼科医の診断のもと眼鏡処方を受ける必要がある.点眼薬の処方を追加する.
Rx 処方例
サンコバ点眼液 1回1~2滴 1日4回 点眼(注:ビタミン剤です)
B. 筋性眼精疲労
若年の間欠性外斜視や輻輳不全症例には輻輳訓練を試みる.代償不全性斜視の場合はプリズム眼鏡処方(注:プリズムとは一方が厚く他方が薄い構造のメガネレンズのこと。このレンズを通ると光線は一律に捻じ曲げられて、斜視や斜位を中和できる。斜視核の半分程度を実用の眼鏡には入れて処方することが多い。)が有効なこともある.重症例には斜視手術(これを行う眼科医はすべての眼科医ではなく極限られている。)も検討する.老人性眼瞼下垂では眼瞼挙筋の短縮手術(これも常時行う眼科医は少ないので紹介先が限られている。)も検討する.
C. 不等像性眼精疲労
屈折異常(注:通所は近視の事)の強い眼の矯正度数を弱くし,両眼のバランスをとる.
D. 症候性眼精疲労
各原疾患に対する治療が基本である.眼瞼けいれんが原因の場合にはボツリヌスA毒素の眼輪筋内への局所注射が行われる.
E. 神経性眼精疲労
必要があれば,精神科(注:神経心理のカウンセリングも併用も可能)への紹介も考える.
■患者説明のポイント
・デジタルデバイスを使用した業務など,長時間の近業では,1時間1回程度の休憩をはさむ,乾燥した環境では点眼薬(注:ドライアイや乾性角結膜炎の診断にて、ヒアレイン、ジクアス、ムコスタなどが日本では用いられる。米国では抗炎症薬も使用される。)などを適切に使用する,眼周囲を温めて血流の改善をはかる,といったセルフケア方法を説明し,改善がみられなければ,眼科専門医への受診を勧める.
文献
1)Sheppard AL, et al: Digital eye strain: prevalence,measurement and amelioration. BMJ Open Ophthalmology 3:e000146,2018
2)Rosenfield M: Computer vision syndrome: a review of ocular causes and potential treatments. Ophthalmic Physiol Opt 31:502-515,2011
3)清澤源弘, 他: 眼瞼痙攣の治療.神経眼科 34:411-420,2017
4)今日の治療指針2020年版 2020.01.01 発行
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