真に迫る幻視、シャルル・ボネ症候群:視覚障害のある高齢者に多い
そこにいるはずのない人や動物などが真に迫って見える「シャルル・ボネ症候群」。本人は戸惑い「自分はおかしくなったのか?」と一人悩むケースも少なくない。しかし、清沢眼科医院(東京都江東区)の清沢源弘院長は「加齢黄斑変性症や緑内障などの病気で視力が著しく低下した高齢者にはこうした幻視がよくみられます。精神疾患ではなく、脳の機能も正常です」と強調する。(現在は自由が丘清澤眼科院長)
▽脳が感覚を補助
シャルル・ボネ症候群による幻視では、無意味な映像が脈絡なく、しかも現実感や迫真感を持って見える。人や動植物、幾何学模様などが典型例で、数秒で消えることもあれば、一日じゅう続くこともある。清沢院長は「病気ではない」と繰り返し強調するが、それではなぜあるはずのないものが見えるのだろうか。
人間が「見る」という行為は、「目で見る」ことと「脳で見る」ことの二通りの方法で行っている。「脳で見る」というのは記憶にあるものを呼び起こし、それを映像として認識することだ。睡眠時の夢がこれに当たるが、シャルル・ボネ症候群では覚醒時に同じ現象が起きているのではないかとみられている。
清沢院長は「著しい視力低下で目からの情報が激減してしまうと、それを補おうと『脳で見る』機能が強まる―。これが幻視の正体だと考えられます」と説明する。手足を切断した人も、あるはずのない手足に痛みを感じることがある。これは脳が失った手足の感覚を補っているためで、視覚でも同じことが起きていると考えられる
▽自然に消失
根本的な治療法はないが、多くは2~3カ月程度、長くても1~2年程度で自然に消えていく。「あえて言えば、それが決して精神疾患ではないと本人に伝え、安心してもらうことが最大の治療です」と清沢院長。
問題なのは、患者が誰にも相談できず、一人で悩むことだ。シャルル・ボネ症候群は視覚障害のある高齢者の1割程度が経験しているともされるが、誰かに症状を訴える人はその1%程度にすぎない。「患者さん本人も幻視であることを十分自覚しているのですが、周りから『精神異常ではないか』などと思われることを恐れ、人に言い出せないようです」
清沢院長は「こういう現象があることを広く知ってもらうことで、本人も誤解を恐れず人に話せるようになる。それが不安の軽減につながるはずです」と話している。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです。現在は自由が丘清澤眼科院長)
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